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コラム:夢を抱いて

2016年11月24日

それぞれが問われる時代

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

トランプ大統領の出現

 11月のアメリカ大統領選挙。多くの予想を翻してトランプ氏が選ばれました。トランプ氏による「不法移民の追放」や「メキシコ国境に壁をつくる」等の排外主義的な発言や、「TPP脱退」に見られる保護的経済政策は、「米国第1」という孤立主義に基づいたものといえます。冷戦終結後に「世界の憲兵」として、また、「グローバル経済の推進者」として世界中に影響力を行使してきたアメリカが大きく変わっていく出来事です。

 このような劇的な変化が起こった背景には、アメリカ社会の深刻な格差があり、特に中西部の工業地帯の壊滅状態によって生活を破壊された白人労働者の反乱があったと言われています。新大統領の過激な発言に触発された排外主義や人種差別等が、アメリカ社会だけでなく世界に影響を与え、混乱させていくのではないかと心配します。だからこそ、この不満の根底にある格差社会の解消に向けて、貿易の自由化のみを目標とするグローバル経済のあり方を見直す必要があります。企業が海外に逃げていくのを止めるためを理由にした不当な法人減税や、国際経済での生き残りのために必要だとされるコストカット(労働者の首切り、非正規化)が社会に大きな不満と分裂を生んでいるのです。

 どんな人でも尊重され、努力が報われる公正な社会を求める声に今こそ政治が応える必要があります。

 一方で、国際関係へのアメリカの過剰な関与が後退することは、決して悪いことばかりではありません。アメリカの核を最終的な抑止力としつつ、中国やロシアを仮想敵にアジアの緊張関係に対処してきた外交政策の転換が求められています。既にフィリピンやベトナムは、南シナ海での緊張解決の為に中国との対話に乗り出しています。日米の関係を重視しつつも、経済的には切っても切れない中国等、アジア近隣諸国との協力関係強化への日本独自の努力を重ねることによって、東アジア地域の安全保障の枠組みを築いていくチャンスととらえることが必要です。トランプ大統領の出現を単に悲観するだけでなく、自分たちの国や地域が安心できるものにするために何ができるかを考える契機とすべきです。

「総合区」という大阪市の改革

 今年8月から大阪市による「総合区・特別区(新たな大都市制度)に関する意見募集・説明会」が各区で開催されています。昨年5月に大阪都構想に関する住民投票は否決されたものの、11月の大阪府知事・大阪市長のダブル選挙で大阪維新の会が圧勝したことを受けて、知事・市長側は「民意は都構想にあり」と大阪市大都市局を「副首都推進局」に名称変更し、再度の住民投票をめざそうとしています。しかし、市議会では大阪維新の会以外は「都構想は終わった話」となっており、むしろ現在の大阪市を残して各区に行政権限等を移行する「総合区」設置の議論が進められています。

 朝日新聞(11月22日朝刊)によると大阪維新の会が公明党の総合区導入に賛成し、「大幅な合区が進む可能性が高まっている。」とのことです。もちろん、大阪維新の会は都構想実現を目標にしているため、まだまだ紆余曲折があると思われますが、大阪市の制度改革が大きく進むのは間違いないようです。

 橋下現象といわれる一大旋風を巻き起こした橋下大阪市長の出現の背景には、大阪の停滞した経済と行政に対する市民の不満がありました。市民とはかけ離れた所で政策が決定される一方で、「オール大阪」の基準を盾に行政が地域の創造的な取組を押さえつけ、地域の活力を奪ってきました。大阪市のまじめな行政職員もその弊害を痛感しており、そのことが関市長時代の市政改革への動きになっていたのですが、改革の遅れの中、橋下氏が世間の不満の声を集めて大阪市に乗り込んできたのでした。

 副首都推進局がまとめた各区説明会での「大阪における総合区の概案」によりますと、人口規模による区割り案(45万程度の「5区案」、30万程度の「8区案」、20万程度の「11区案」)と、各区への事務分担による案(現行業務+限定事務の「A案」、一般市並み事務の「B案」、中核市並みの「C案」)によって職員数が変動していことを示しており、概ね小さく分割し、権限を委譲するほどコスト高になるとしています。

 しかし、市政改革で重要な事は、行政効率化のみで見るのではなく、地方自治体の根幹である住民自治をどう実現するかという視点から議論することです。270万人の巨大自治体で、当事者である市民の声をどう市政に反映させるかが課題で、そのための分権委譲でなければなりません。とりわけ生活に関わる課題を当事者である地域住民の力も活かしながら解決していく仕組みとしての「住民参画のシステム」をどう創るのかが問われています。区民の声を区政に反映させるべくつくられた現行の区政会議も、多くは未だ区民の一部の声を「聞きおく」レベルです。今後、合区ともなれば、一部に「総合区政会議」設置の案もあるようですが、ますます住民との乖離が進むことは間違いありません。

 少なくとも現行区毎の「区政会議」をより幅広い意見が集約でき、区内選出市会議員とも協働できる公的組織への格上げが必要ではないかと思います。

 同時に大切なことは、身近な地域で多様な住民の声を反映できる地域組織をどう育てるかということです。「ニアイズベター」と鳴り物入りで組織された地域活動協議会も、既存の地域振興町会が主導しているのが現状で、地域の一部の声しか反映できていませんし、役員の高齢化とともに活動する人材の不足が深刻です。

 住吉区の地域見守り支援システムでも、新たな住民による活動参加の輪が広がるかどうかが取組みの成否を決めるといっても過言ではありません。

 私たち福祉専門職が地域で取り組む高齢者や障害者への支援実践では、専門職だけでなく地域の住民や商店などの多様な関係者を巻き込む活動が大切とされています。一人の困難を抱える人を支援する経験が、他の同じような人への支援につながっていく。その結果、関わる人びとの中に、他人事ではない、やがて自分の身にも起こる問題として理解が深まる中で、地域に支え合いの風土が生まれてくることをめざします。

 新たな人材の発掘と地域組織の活性化は、このような地域での個別の問題への関わりの輪を広げていく中でこそ生れてくるものだと思います。

 

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