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コラム「夢を抱いて」

ニューノーマルの世界

2020年5月25日

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 昨年末に中国から発生した新型コロナウィルスは瞬く間に世界中に広がり、5月21日現在、196の国・地域の感染者は500万人を超え、死者は33万人に上っています。世界的感染爆発の第1波は、ようやくおさまる兆しが見えてきていますが、これから冬を迎える南半球での拡大も予想され(特に、大統領が感染症を軽視するブラジルが危険)、未だワクチンや新薬等、有効な医療対策がない状況下では、新型コロナウィルスとの戦いに終わりは見えません。ウィルスの完全撲滅というよりも、長期にわたる「共生」の時代を覚悟せねばなりません。

 今回の感染爆発の経験を通して、私たちはこれまでの社会経済の在り方を大きく問い直す必要に迫られています。

  その一つに、「過度のグローバル化の弊害」があります。国境を越えたグローバル経済の進展によって広がった人の流れが、ウィルスを世界中に拡散しました。経済分業に基づく商品の供給システムが崩壊し、経済活動が完全にストップしてしまいました。IMFによると世界経済は500兆円の経済損失を受け、大恐慌以来の経済不況となるとしています。

 また、「都市一極集中の弊害」です。感染爆発は世界の大都市を中心に起こっており、人口が集中する都市部に多くのクラスターが発生しました。東京のような政治・経済・文化の集中した大都市は活動制限緩和が困難で、結果として全国的な経済停滞を引き起こしています。

 さらに、「格差の中での人権侵害の拡大」です。社会的危機の不安が感染者や外国人への差別をあおり、日本では過度の同調圧力を背景にした「自粛警察」を生み出しました。経済自粛で仕事や住む場所を奪われた非正規労働者、学校閉鎖で給食や学ぶ機会を奪われた子ども達など、「自助努力」を求められ放置された人々の人権が次々と侵害されました。

 新自由主義経済による効率主義と競争主義によって生まれた「グローバル化」や「格差拡大」が、いかに社会を危うくしていたか、私たちは新しい感染症によって思い知らされました。

 いま、「ポスト・コロナ」について、新たな感染症と共生できる社会についての議論が次々と出されています。「テレワーク」「オンラインサービス」「電子マネー化」などのデジタル社会化を一層推進する議論から「学校9月入学」への移行策まで、この際、社会の大きな転換を図ろうというものです。

 「ニューノーマル」という、これまでとは違う社会の在り方が模索されているのですが、大切なことは、これまでの競争主義や効率主義優先の社会の在り方を根本的に変革するという明確な視点を持つことです。

 リモートワークも単なる在宅勤務の枠を超えて、本社の地方移転や地方都市に住みながらの勤務にすることで、地産地消の推進、都市1極集中から地域分散化、コミュニティ経済の活性化という大きな社会変革につながります。そしてこれは、日本社会が逃れられない大規模な災害にも備えられるものです。

 「分散化」は同時に「分権化」を伴うものでなければなりません。今回、知事のパフォーマンスに注目が集まりましたが、国より自治体のほうが地域の実情に近いため、知事の指導性が目立つのは当然です。むしろ、知事のリーダーシップが発揮できるかどうかは、基礎自治体が地域で住民をはじめ事業者など多様な関係者との連携をしっかり取れているかにかかっています。「地域協議会」などで住民が中心に地域の課題に取り組み、行政がその声をしっかり受け止めて政策化していく「住民自治」の仕組みが必要です。

 今回のコロナ禍を振り返ると、医療・介護労働者や家族への差別や、感染を恐れた事業所閉鎖で高齢者等の地域生活が成り立たなくなる事態が起こりました。また以前から、「施設から在宅へ」というスローガンにもかかわらず、「事業の効率化」を掲げた報酬単価の引き下げによって、「在宅介護体制」の整備は進むどころか縮小の道を歩んでいました。地域の介護体制をどう確保するか、いざという時の社会サービスを確保し、コントロールできる仕組みが必要です。「地域包括ケア」や「地域共生社会」の実現という課題からも、在宅訪問介護への重点投資によって安心して地域生活が継続できる体制が必要です。しかし、単に報酬単価を上げるだけでは、かつての「なんちゃって訪問介護事業所」が復活するだけです。

 そこで、地域包括ケアエリアに高齢者・障がい者等の在宅生活を支援する「包括的訪問介護センター」を設置し、地域の在宅介護体制を再確立する政策転換が必要だと思います。スタッフは全員が介護福祉士の資格を有し、研修を通し援助の質を求めつつ、処遇の大幅改善を行うことが必要です。また、地域包括支援センターがコーディネートする「地域訪問介護事業運営協議会」を設置し、居宅介護支援事業所、行政、民生委員等の地域住民らが参画し、この訪問介護センターに意見具申できる体制を整備することも不可欠です。

 世界的感染危機を経験したいま、明らかに社会の在り方を転換しようという条件が整いつつあります。これまでの「自助努力と競争」を求める社会から、「相互尊重と連帯」する社会への転換こそが、いま私たちが目指す社会の在り方ではないでしょうか。