2012年5月1日
ライフサポート協会 常務理事 村田 進
前回のコラムを書いてから、はや8か月が経ってしまいました。「今月のなごみ」のように毎月はじめにアップする決まりもなく、不定期ゆえに、つい日々の活動にまぎれて発信がおろそかになってしまい、本当に反省しています。
この8か月、一体、何をやっていたのかと振り返ってみました。
まず、去年の7月から大阪市住吉区の区政会議の委員として区政のあり方についての議論に参加しました。同時に、地域で緊急時の医療情報等を記録した「救急カプセル」の登録運動に取り組んでいます。秋には地域社会福祉協議会で初めての福祉まつり「住吉ふれあいまつり」の開催(11月)に向けた準備に力を入れました。
そうこうするうちに11月の大阪府知事と大阪市長のダブル選挙。勝利した橋下新市長からの「市政改革の嵐」の中で、地域福祉をどう守るかの議論が続きました。(これは4月に大阪市改革プロジェクトから「施策・事業の見直し(試案)〜市役所のゼロベースのグレートリセット〜」として提起され、大きな議論を呼んでいます。)
法人では、昨年5月の「大領の家であい」開設以来、高齢事業部を中心に計画予算との乖離が大きく、収益確保に苦慮する状態が続いていました。2009年の法人10周年記念集会で打ち出した「法人第3期事業計画」の最終年として、目標の達成に向け最後の追い込みをかける日々でした。また、関元市長時代に決められた「障害者会館の条例廃止」の市会議決(2011年2月)を受け、住吉障害者会館廃止後の障害者の地域生活支援事業のあり方についての議論を重ねてきました。
一つひとつが大きな課題でしたが、個別に対応するだけでなく、その取り組みが今後の地域福祉が前進する形でどうつなげることができるかという視点で実践を重ねてきました。その都度、コラムで発信すべきでしたが、少しピッチが速く、整理して提起できる状態ではありませんでした。(っと、まあ勝手な言い訳です。)
「税と社会保障の一体改革は待ったなし」と言われて数年が経ちますが、既存の社会保障制度が財政的に行き詰まりを見せ、新しい枠組みを構築しないと急速に進む少子高齢社会に全く対応できなくなるのは明らかです。
これに機敏に対応できない政治の問題はさておき、地域では、現状改革への様々な動きが始まっています。先ほどの大阪市の「グレートリセット」もその一つで、「大阪都構想」を掲げた自治体改革の中で、これまでの事業を全て一から見直し、「効率化」「民の力の活用」「地域住民主体」等の視点で改革案が出てきています。
確かに既存の事業の中には、地域福祉を進めるという観点もなしに個々の要求に対応してできたものも多く、事業効果や必要性に疑問のあるものもありました。しかし、大阪市の事業見直し案が単に削減・廃止というのも無責任です。
「効率化」は誰のためのものなのか、何にとって効率的でなければならないのかが問題です。財政問題は当然避けられないものです。それゆえ、本当に困っている人に焦点を絞った事業の整理は必要ですし、「競争化」によるコストカットは避けられません。しかし、事業の見直しによって、地域に活力が生まれることがなにより重要ではないでしょうか?
自治体は元来、地域住民のための自治組織であり、地域の住民が安心して暮らせる町をつくるために事業をするだけでなく、住民同士の支え合いや自治活動が広がるような条件を整える役割もあるのではないでしょうか。
今回の市見直し案の中に「地域福祉活動支援事業」があり、「地域生活支援ワーカーの削減」と「ネットワーク推進員の廃止」が上がっています。「地域生活支援ワーカー」は社会福祉士などの福祉専門家を中学校区に1人配置して、地域の福祉相談に対応する事業ですが、それを区に1人に削減するものです。また、「ネットワーク推進員」は地域住民のボランティアであるネットワーク委員の事務局として、日常的に行政や福祉専門機関との連絡調整に当たっています。確かに、これらの人材が適切に機能していない地域もあり、「効率化」が求められている面も理解できますが、削減や廃止ではこれまでの努力をただ後退させるだけになります。
先日、大阪市内部で「見直し(試案)」を作成した改革プロジェクトと福祉局との話し合いがありました。そこで福祉局からの提案が、「地域生活支援ワーカー」を廃止して、各地区の包括支援センター等に専門職を1名配置するというものでした。
地域包括支援センターは、地域の総合相談窓口として地域住民と一体的に地域福祉を推進して行く大きな役割が期待されています。まさにそのような専門機関に専門職を増員して、これまでの地域での福祉課題の掘起こし活動をより組織的に取り組んでいこうという福祉局の提案は非常に重要だと思います。
しかし、改革プロジェクトや橋下市長の意見は、『そのような内容は各区長が決めればよいことで、福祉局の提案は不要』というものでした。
地域の活動や組織のあり方は、当然、地域で決めていくべきで行政対応もそれに合わせて柔軟であるべきですが、地域福祉を前進させていく上での専門機関の配置は「地域福祉計画」等の行政計画の中で明らかにする責任があります。橋下市長は、大阪市という行政機構をつぶして、9つの基礎自治体(区)に再編しようという構想をもっており、「地域福祉計画」などはその自治体ごとにつくればよいと考えているのでしょうが、一方で、大阪市は「介護保険計画」や「障害者福祉計画」など、国の法律で決められている「行政計画」については、粛々と策定しています。
「地域住民主体」を旗頭にするのであれば、その活動を専門的に支援しようという福祉局の提案を「全市の目標」とした上で、実現までの地域差を認めるという姿勢こそが重要ではないでしょうか。