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社会福祉法人こそ地域の中に!

2012年7月1日

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

 『福祉を行政の「措置」から本人選択の「サービス」に変更する。』

 「福祉のサービス化」は、2000年改正の社会福祉法と介護保険制度の中で、社会福祉制度の転換を最も象徴する点の一つでした。

イラスト 「多様なサービス提供体制の確立」に向けた国の誘導策もあって、従来の社会福祉法人とは別に、株式会社やNPOなどが介護保険事業に続々と乗り出しました。しかし、質を担保する体制のない中、2007年にコムスン問題が起こり、介護保険事業を単なるサービス事業と捉え、競争を基準とする市場経済論理で事業展開を進める民間事業者の危うさが明らかになりました。

 ところが、残念なことに、これまで福祉サービスを中心的に担ってきた社会福祉法人の中にも、ともすれば事業の拡大や収益の確保ばかりに熱心で、社会福祉本来の課題を忘れがちな法人も見受けられるようになっています。

 これまで、公益性が高い法人として、社会福祉法人には法人税の免除や、特養経営等の第1種社会福祉事業のような「事業独占」が認められてきました。しかし、介護保険事業で同じデイサービス事業や訪問介護事業を行っても、株式会社やNPOが負担する法人税が社会福祉法人にはかからないばかりか、小規模多機能型居宅介護では社会福祉法人だけに「拠点整備費補助金」が出るという実態に、民間からは「イコールフッティング(競争の公正化)」を求める批判の声が高まっていました。また、介護保険制度改定のたびに、特養ホームの設置・運営を株式会社など民間組織に開放せよという要求も強まっています。

 民主党政権下での「新しい公共円卓会議」(2010年3月)では、住民が参加し支え合う新しい社会づくりにNPOや「社会的企業」の積極的役割が期待されており、社会福祉法人は「行政の下請け的機関」として改革の対象とされてしまっています。

 小泉改革以後に拡大・深刻化した「格差社会」で、経済的困窮や社会的孤立が大きな問題として浮かび上がってきています。2008年年末に開設された「年越し派遣村」をはじめ、ホームレス等、多くの生活困窮者への支援にNPOの若者が積極的に関わって、実績を上げてきていました。

 今年6月に開かれた政府の国家戦略会議で小宮山厚生労働大臣は「生活支援戦略」を打ち出しました。「生活困窮者の経済的困窮と社会的孤立からの脱却」「貧困の連鎖の防止」「各人の多様な能力開発と向上」「信頼される生活保護制度の構築」などを柱とするもので、「多様な就労機会」と「家計再建+居住の確保」で新たなセーフティーネットを導入していくとしています。そして、これらのことは官のみの力では難しいため、NPOや社会的企業などの民間との協働で取り組むとしています。

 社会から排除され、孤立した生活困難者に対し、未だ制度のない時代から率先して支援に取り組み、様々な社会的支援の制度を求めてきた社会福祉法人の先進的な役割はどこへ行ったのでしょうか?

 危機意識をもった社会福祉法人の全国組織は「原点に立ち返ること」を訴えています。(

 「地域包括ケア」がこれからの介護保険制度の中心テーマになっているように、地域という場で様々なサービスや人のつながりを重ね合わせていくことが重要となっています。高齢・障害・子ども・生活困窮者にかかわらず、生活困難を抱えた人が地域の中で孤立して起こっている様々な課題に対して、社会福祉法人として果たすべき役割は、やはり専門職集団としての関わりではないかと思います。

 社会福祉の専門職として、まずは、本人から出発する個別支援に取り組む事です。本人の抱えている困難に対し、現状分析の上で、本人のニーズと課題を本人と確認しながら、解決に向けて共に歩んでいく過程を重視することです。一人ひとりへの切れ目のないオーダーメイドな支援策を打ち立てるために、様々なサービスや社会資源の活用・連携に取り組む事が必要です。

 そして同時に、地域の支え合いの力を高める地域福祉の推進が必要です。本人への支援に地域住民の参加を求め、協力者の輪を広げていとともに、それらの経験を蓄積させていくことと並行して、地域の福祉課題への活動を活性化させ、互いに支え合う地域づくりに取り組むことです。

 まさに社会福祉法人こそ、この原点を掲げて、制度の狭間と社会的孤立に落ち込んでいる人のニーズに応えるために、果敢に地域へ飛び込んでいかねばなりません。

 NPOなど、多様な支援組織との連携に率先して取り組むとともに、地域住民自身による問題解決の力を高めることに努力を傾注していく事が重要です。単に専門的サービスを提供するだけでなく、本人と地域住民自身が福祉問題を乗り越えていく、更には、問題発生を予防して、支え合う地域を創造していく過程に専門職集団として積極的に関わっていくことが求められているのではないでしょうか。

 その役割に応えていく過程で、社会福祉法人は地域に確固とした地位を築くことができ、法人職員はソーシャルワーカーとしての大きな成長を得ることができるのではないかと思います。


(注)全国社会福祉施設経営者協議会が、昨年7月にまとめた「社会福祉法人 アクションプラン2015」の中で、利用者との対等な関係に基づいた福祉サービス提供機能や、制度の狭間にあるニーズに応える福祉サービス提供機能などの諸機能を発揮して『地域社会において「面」的で、かつ重層的な福祉実践を先駆的、開拓的に展開することは、いわば社会福祉法人が制度創設の原点に立ち返ること』(「情勢認識」P3)であると強調したのも、社会福祉法人の現状に対する強い危機意識の現れだと思います。