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本当の自律的な地域運営のために

2012年8月13日

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

 2011年12月19日の初登庁から8か月。橋下大阪市長による市政改革が本格的に動き始めています。

イメージ 市政改革については、当初、労働組合など市職員の改革に力が注がれていましたが、2012年度予算案編成の段階から大阪市政全般に対する見直し改革に重点が移ります。4〜7月は暫定予算を組み、8月以降の予算については1億円以上の施策を抜本的に見直す「大阪市改革プロジェクト事業見直し(試案)」に基づいて個々の施策の検討がされていきました。

 最終的には7月の市会を経て、「市政改革プラン〜新しい住民自治の実現に向けて」が策定されました。その市政改革プランは、今後の基本方針を「成長は広域行政、安心は基礎自治行政」という考え方において施策の整理をしています。この基礎自治行政については、(1)「ニア・イズ・ベター(補完性・近接性の原理)」を徹底的に追求した新しい住民自治と区政運営の実現、(2)ムダを徹底的に排除した効果的・効率的な行財政運営を改革の柱としています。

 そして、「地域の特性や課題、住民ニーズを的確にとらえながら、きめ細かく実施していく事が必要。」そのためには、「行政中心ではなく、住民等が中心となり、行政は住民等と協働し活力ある地域社会づくりを進める」ことと、「住民に身近なところで地域社会づくりを支える区政運営」が必要で、まず、「区長に決定権を与え、局を区長の指示の下に動く補助組織化」するとしています。(カッコ内は市政改革プランより抜粋)

 市政改革プランでは「大きな公共を担う活力ある地域社会」として、既存の地域組織だけでなく、様々な地域での住民活動や企業も参画して自律的かつオープンな地域運営をめざすとしています。

*参照 「市民による自律的な地域運営の実現」(地域活動協議会)
市政改革プラン アクションプラン編 P15〜P18)

 「地域活動協議会」といわれるこの組織の構想は、前平松市長の時に突然現れて地域に提起されましたが、地域団体への説明を重ねる前に市長が交替となってしまい、頓挫していました。ところが、橋下市長の市政改革の重点にこれが復活したのです。

 地方自治行政を効率的に進める上で、地域の実情を知っている住民と協働することは欠かせませんし、住民参加や情報公開などの住民主体を保障する制度は極めて重要です。

 市政改革プランは「地域活動協議会」への移行を2013年度中にめざすとしており、それを支援するために「中間支援組織」なるものを一般公募しています。

 しかしながら、本来、住民の自主的な活動と意志によって作り上げられるべき地域組織を、このような短期間で「上から」組織しようとするところに、掲げた看板との大きなずれを感じます。

 これまで、地域には、地域振興会(町会)、地域社会福祉協議会、地域ネットワーク委員会などの組織が、互いの関係が十分整理されないまま、大阪市の時々の構想に基づいて縦割りに作られてきました。その結果、地域によっては、それぞれの組織の代表者が対立して、連携した活動ができないところもありました。

 しかし、市政改革プランは、それらの地域組織を一本化するばかりか、民生委員や老人会などの地域住民の組織、学校、病院、福祉施設などの公的施設、商店会、NPOなどの民間企業等、地域にあるほとんどの団体を含む極めて幅の広い地域組織を創ろうというものです。

 どのように素晴らしい目標であっても、その実現の手段と過程によっては「悲劇」を生むだけに終わるということに自覚的でなければなりません。

 ましてや、住民自治という住民自身の主体性を重んじ、その自覚的行為に基づく社会をつくろうという目標を達成するには、これまでの経過や地域の状況を踏まえることは当然で、地域の連帯意識と主体的自覚を高めるための地道な活動の積み上げがなければなりません。

 コンサルタント会社のような中間支援組織が、地域の一部の役員を集めて指導して作り上げた「地域活動協議会」に、地域の幅広い課題に取り組んでいける可能性は極めて低いと考えざるを得ず、その後の地域の混乱と対立の結果、ますます地域住民の連帯の根は枯れてしまう結果を生みかねません。

 私たちの社会福祉の世界では「本人主体」が大原則です。目指すべき支援は本人の自立支援で、本人の思いを受容しながら、本人の変化のタイミングを見逃さず必要な支援を重ねていく過程を重視します。「あなたのためだから!」と拙速なサービス導入や本人への指示は禁物です。

 「地域のことは住民が一番知っている」というのは、そうであるべきですが、現実には地域への関心を持っている住民の方が少なく、今の地域の役員にしても義理厄介で受けている人も多くあります。地域への思いを深め、新たな人材を掘り起こす作業から入る必要があります。地域の力と可能性を住民自身が自覚できるような活動の支援に行政が取り組むことが、時間はかかりますが地域を自分たちで維持・発展させていこうという住民を生み出し、結果として「地域の自律的運営」が可能になっていくのではないでしょうか。