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大阪市地域福祉推進指針(素案)を読んで

2012年9月8日

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

 大阪市は8月に「大阪市地域福祉推進指針(素案)」(以下、「指針素案」という)を発表し、現在、パブリックコメントを募集しています。

*「大阪市地域福祉推進指針(素案)」についてご意見を募集します
http://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000178213.html

イラスト 2000年の社会福祉法で市町村に策定が義務付けられた地域福祉計画ですが、大阪市では2004年3月に第1期大阪市地域福祉計画(計画期間:2004〜2008年度)、2009年3月に第2期計画(計画期間:2009〜2011年度)を策定し、大阪市における地域福祉の推進をはかってきました。しかし、昨年の大阪府市のダブル選挙で勝利した大阪維新の会の「大阪都構想」に基づき、第3期の地域福祉計画は策定されませんでした。今回まとめられた指針素案には、『大阪市域を単位とした1つの「計画」を策定するのではなく、それぞれの区の特色ある地域福祉の取り組みを推進するために』「大阪市地域福祉推進指針」に変更し、取り組み期間は2012年度から「大阪にふさわしい自治の仕組みづくり」ができるまでとしています。

 指針素案は5つの章から構成されており、第II章「地域福祉の推進にあたって」の「1基本的な考え方」と「2地域福祉の具体化のための視点」は第2期計画の内容とほぼ同じですが、「視点」の部分では「(8)経営感覚も取り入れた総合的な観点からの施策・事業の展開」が追加されています。

 「3地域福祉の担い手」は新たに作成されたもので、これまでの計画よりも具体的で多様な担い手を上げています。しかし、学校や生徒(小学校から高校まで)の役割については触れられていません。

 「4地域福祉の方向性」についても、「視点」の内容を繰り返す一般論にとどまっています。

 第III章「地域福祉アクションプランの検証と更なる推進」では、この間の各区でのアクションプランの問題点を踏まえた課題を提起しています。

 これまでのアクションプランの総括では、『福祉的な要素が希薄になってきており、イベント中心の取り組みになっている』、『地域福祉のアクションプランとして、地域にとって意味のある取り組みを行ってほしい』等の声が出されていました。指針素案ではこの問題点を踏まえて、「福祉課題の解決」「校区等地域を単位」「PDCAサイクルの確立」の3つの課題を示しています。テーマとエリアをより実践的に規定した点は評価できますが、校区等のアクションプランを誰がどのように策定するのかについては具体的な記述がありません。

 指針素案が強調する区独自の取り組みについては、第V章「福祉コミュニティを創造する仕組みの再構築」で具体的な例を挙げています。

 「再構築の方向性(例)」として、まず、「区独自の福祉システムへの再構築」が提起され、地域支援調整チーム代表者会議とアクションプラン推進委員会との再編や部分統合などの例を示しています。

 地域包括ケアの推進に向けた「区地域包括支援センター運営協議会」、障がい分野の「地域自立支援協議会」など、分野・制度別に様々な会議が錯綜し、その連携が課題になっており、今回、区の実情に合わせて再編や構成の見直しを図るというのはそれなりの意味があるとは思います。しかし、「地域支援システム」という形で校区—区—大阪市と3層レベルで福祉課題に取り組むという大阪市の福祉政策の骨格を止めるというのであれば、それに代わる大阪市における地域支援方策を示す必要があります。

 地域の福祉課題を区の段階でまとめ上げ、区政の範囲を超える課題については区と福祉局との連携により取り組むとされていますが、「総合相談」や「権利擁護」、「虐待予防」などについては全市統一の体制整備が必要で、区によって取り組みに差があるというわけにはいきません。

 次に「区民による自律的な地域福祉活動の実現」として、「地域活動協議会等の設立推進」を掲げ、「円滑な運営を図るためのコーディネーター役の設置」が不可欠としています。市政改革プランによって、大阪市は2013年度中に市内の全小学校下の連合町会レベルで、地域団体、事業所、様々な活動団体を網羅した地域活動協議会を設立することを打ち出しており、すでにそれを支援する「中間支援組織」の公募を始めています。

*新たな地域コミュニティ支援事業の委託事業者(中間支援組織)を募集します
http://www.city.osaka.lg.jp/shimin/page/0000178314.html

 ここで言われている「コーディネーター役」と公募されている中間支援組織(4〜6区を担当)との関係は明らかではありません。

 さらに、指針素案では「多様な中間支援組織との連携による地域福祉活動支援の強化」を掲げており、「地域包括支援センター等の専門相談支援機関」、「コミュニティビジネス化等のノウハウを有する中間支援組織」、「区社会福祉協議会をはじめとする活動支援を行う中間支援組織」などとの連携を例示しています。

 総じて、福祉政策を区の段階で地域の事情に合った形で進めるという目標に貫かれた指針素案ですが、下手をすればその責任を地域住民の努力に丸投げしかねない危険性を感じます。

 住民が自らの地域課題に共生の視点を持ちながら取り組むことは地域福祉の基本です。しかし、形骸化した地域のつながりを再生していくことは容易なことではなく、取り組む人材を発掘するところから始めなければなりません。指針素案に頻繁に出てくる「コミュニティ・ビジネス」等の事業化に視点が行きがちですが、地域の困難を抱えている個別の住民への支援と、それを支える住民の活動を支援する具体的な取り組みを通じて、地域の福祉力を育む事に力を注ぐ必要があると思います。区役所は区内の福祉専門機関と連携して、その専門性を発揮する必要がありますし、大阪市は各区での地域支援の枠組みをしっかり構築する行政責任があると思います。

 例示されている「地域包括支援センター等の専門相談支援機関」を、大阪市における地域福祉計画推進の重要な機関と位置付けて、地域住民と一緒に相談支援に取り組むとともに、障がい者、児童など幅広い総合相談に専門的に対応できる体制の整備・強化を急ぐべきではないでしょうか。