2012年11月8日
ライフサポート協会 常務理事 村田 進
橋下大阪市長の掲げる「大阪都構想」は、大阪府と大阪市の二重行政の弊害を排して、より効率的な自治体運営をめざすことをめざしています。また、同時に、「ニア・イズ・ベター」のスローガンを掲げて、市民により近い所で政策を決めていくことにも重点をおいて、区の段階で政策決定と予算執行が進められるように、区長に対し市長に次ぐ権限を委ねる機構改革も進めています。
2012年7月の「市政改革プラン」では、地域活動協議会を「校区等地域を単位として、さまざまな市民活動団体が幅広く参画し、開かれた組織運営と会計の透明性を確保しながら地域課題にとりくむ」自律的地域運営の仕組みとして位置付けています。
もともと、この「地域活動協議会」は、平松前市長時代の大阪市改革論議の中で打ち出されたものでした。2010年10月「(仮称)新しい大阪市をつくる市政改革基本方針Ver.1.0(素案)」の中で、はじめて(仮称)「地域活動協議会」が提案されました。その構成員は、連合振興町会・地域社協・市から委嘱されたり、業務を代行する地域団体となっており、ほぼ現在の連合振興町会の構成と同じでした。しかし、パブリックコメントを受けて作成された「なにわルネッサンス2011−新しい大阪市をつくる市政改革基本方針」(2011年3月)では、当時の鳩山民主党政権の下で取り組まれた「新しい公共円卓会議」(2010年1月〜6月)での議論を反映させ、「豊かなコミュニティと活発な市民活動」を前面に出したものとなっています。地域活動協議会の構成はNPOや企業、福祉施設・病院、学校園・PTA、社会教育団体等に拡がり、多様な人材と協働をめざすものとなっています。
このように、地域活動協議会は平松市政における改革案でしたが、橋下市政でも基本的に引き継がれ、むしろ加速化されています。市政改革プラン(今年7月)では、2013年度中に全小学校下で地域活動協議会の結成をめざすとしており、それを支援するための「新たな地域コミュニティ支援事業」を創設し、市内を5ブロックに分けて、地域での協議会結成を支援する事業者を公募・選定しています。
橋下市長は、就任直後の施政方針演説(昨年12月)で、大阪都構想と並んで「大阪市役所の組合問題にも執念を燃やして取り組んでいきたい」と表明し、その後、庁舎内の組合事務所退去要請や政治活動への職員アンケート実施など、次々と労働組合活動への規制を打ち出しています。この背景には、大阪市の職員組合が平松前市長の選挙での実働部隊であったことがありました。
「平松後援会」の裏で実働していたのが労働組合ならば、表で活動していたのは「連合振興町会」「社会福祉協議会」等の地域団体の長でした。橋下市長の改革で、あえて平松時代からの「地域活動協議会」を引継ぎ、さらに加速化させようとしているのは何故でしょうか?
今年6月、橋下市長は、市政改革プランのパブリックコメントに市民から寄せられた多くの批判的意見に対し、「サイレント・マジョリティ」の存在を強調して、耳を貸そうとはしませんでした。思うに、橋下市長には、地域の既存団体ではなく、隠された市民の声を集めるための仕組みとしての「地域活動協議会」が必要だと思われているのではないでしょうか?
市政改革プランでは、地域活動協議会に求められる条件として、(1)開かれた組織運営、(2)会計の透明性確保、(3)法人格の取得をめざす等があり、地域の既存団体以外にも幅広い活動主体が参画することと、外部監査の入る法人格取得を求めています。
一方で、既存の地域団体への補助金使途の厳格化を打ち出し、他方で、地域活動協議会を結成すれば地域活動に自由に活用できる「交付金」を配分するという、兵糧攻めの方針が大阪市から出ており、地域では、その意味を理解できないまま、残り1年半の間になんとか協議会結成に持っていかねばという空気だけが蔓延しています。
地域活動協議会を支援する「中間支援組織」が公募・選定されています。大阪市内を5つのブロックに分けて募集したもので、大阪市社会福祉協議会(以下「市社協」という)は第1ブロック(北区、都島区、福島区、淀川区、東淀川区)と第5ブロック(阿倍野区、住之江区、住吉区、東住吉区、平野区、西成区)で選定されましたが、残り3つのブロックは大阪市コミュニティ協会や民間コンサルが選ばれています。地域活動を支援するのは本来、社会福祉協議会の中核的役割であったはずですが、残念ながら今の市社協にはその力がないということが明らかになってしまいました。
しかし、さらに問題なのは、市社協がこの支援事業で必要な「地域まちづくり支援員」を1年5か月の期限付き職員として公募したことです。(大阪市コミュニティ協会は日当制の嘱託職員として募集)
大阪市公募の「地域まちづくり支援事業」の「仕様書」では、「支援員」の募集に際し、(1)ファシリテート及びコーディネートの手法、会議等運営の知識やノウハウを有している者を従事させ、地域が円滑に自律運営を行えるよう支援すること。(2)地域活動の実績を有し、地域事情に精通した者を積極的に採用したうえで、常に地域団体等と連携連絡を行えるよう、配慮すること等、を受託事業者に求めています。
第5ブロックの住吉区を例にとれば、支援員は3人となっており、1人当たり4つの連合振興町会(小学校区)を受け持ち、地域活動協議会結成に向けた地域団体への様々な支援をする必要があります。適切な支援技術を駆使して、約5万人の住民組織を地域の実情に合わせて4か所組織していく人材が、月20万円の給与(賞与なし)で確保できるのでしょうか?各区の社会福祉協議会に配置されている常勤の生活支援ワーカーが取り組んでも大変な内容の仕事を、期間限定職員でこなそうとする市社協の姿勢(予算に合わせて人を置けばよいという経営姿勢)に大きな疑問を感じないわけにはいきません。
いずれにせよ、大変な業務を抱えた中間支援組織が、この1年半でまっとうな成果を上げるとはとても思えません。
地域組織実現の可否は、「兵糧攻め」にかかっており、財源に急かされた地域活動協議会の結成は、地域活動の一層の混乱と空洞化を生みかねないと大いに危惧するところです。