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住民とともに紡ぐ地域福祉援助

2013年1月29日

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

イラスト 年末の総選挙の結果、3年3か月にわたる民主党政権が幕を閉じ、自民党政権が誕生しました。返り咲いた安陪首相ですが、7年前の第1次安倍内閣では小泉改革を引き継いで「骨太の改革」を掲げ、社会保障費を毎年2千億円削減する政策を実行したこともあり、今回の政権が社会保障をどう扱うかに注目したいところです。

 そんな中、今年1月25日に社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」(以下、特別部会という)の報告書が発表されました。

 この特別部会は昨年の4月26日に設置されたもので、同じ年の2月17日に野田内閣で閣議決定された「社会保障・税一体改革大綱」を踏まえ、生活困窮者対策と生活保護制度の見直しについて一体的に検討することをめざしていました。並行して行われていた国家戦略会議での「生活支援戦略」(仮称)論議を参考に、秋をめどに法案や具体的な制度設計の検討を行おうというものです。

 しかし、民主党政権の下でスタートした生活困窮者支援制度改革の議論は、この政権交代で大きな変更を余儀なくされたようです。

 そもそも、この改革論議が何をめざしていたかについては、昨年7月5日に厚生労働省が発表した「生活支援戦略」中間まとめで「基本的な方針」として示されています。

 そこには、「基本認識」として、(1)近年の社会経済環境の変化に伴って、経済的困窮や社会的孤立の状態にある生活困窮者をめぐる問題が深刻化している。(2)生活保護受給者は過去最高を更新して増加し、稼働層増加の一方で、高齢世帯も増加している。(3)年収200万円未満の給与所得者や非正規労働者の割合が増加し、生活保護に至るリスクのある人が増えるとともに、複合的な課題を抱えて、社会的孤立状態にある人の問題も大きくなっている、という現状を示しています。

 その上で、次のような三つの「基本目標」を掲げています。

第一には、生活困窮者が経済的困窮と社会的孤立から脱却するとともに、親から子への「貧困の連鎖」を防止する。

第二には、国民一人ひとりが「参加と自立」を基本としつつ、社会的に包摂される社会の実現を目指すとともに、各人の多様な能力開発と向上で、活力ある社会経済を構築する。

第三に、生活保護制度は必要な人への支援を維持しつつ、給付の適正化、国民の信頼に応えた制度確立をめざす。

 ここで述べられている現状認識は、小泉改革によって生じた社会的格差と貧困層の増加への抜本的な対策の必要性でした。それは、経済的な貧困に対して生活保護のように単に国が税金で支援するやり方ではとても間に合わず、困窮者の本来持っている力を活かす方策が重要であること。また、その支援の取り組みに行政だけでなく、地域の住民やNPO、社会福祉法人などの幅広い地域の力を動員し、生活困窮者を地域に包み込む、支え合う社会づくりを目指そうというものでした。

 自民党に政権が移ったものの、厚生労働省の根回し努力もあって、何とか特別部会報告書がまとめられましたが、生活支援戦略で色濃く表現されていた民主党色は一掃され、その内容は以下の二点で変容しています。

 第一に、生活困窮者の対象を、生活保護受給に至る前の段階にある「経済的困窮者」に絞り、「社会的孤立者」を排除した点です。

 今日、問題とされている生活困窮者の多くが経済的困窮者であることは間違いありませんが、そこに至る過程で社会との接点を失って、地域で孤立し、場合によっては排除されている状況が問題です。困難に陥っている人を行政や専門職が支援するだけでなく、継続的に支え、同じ住民として受けとめる地域の支援者づくりが重要ですが、「自助」を重視する安倍政権に配慮した結果、「地域での支え合い」の視点が大きく後退している点は残念なところです。

 第二に、新たな相談支援事業にあった「総合的相談」の視点が抜けている点です。複合的な課題に包括的・一元的に対応する窓口を整備している地方自治体もあるとは述べていますが、その視点で整備すべきとは書いていません。生活困窮者が抱えている複合的課題に既存のタテ割りの相談窓口では対応ができません。本人の課題にワンストップで対応していく相談窓口の開設は、今や地域福祉の中心課題となっていますが、経済的困窮者に特化して、「生活保護受給者の防波堤」の役割を重視するような報告書の視点では、既存の個別相談窓口の一つになってしまいそうです。

 「地域福祉の時代」といわれるように、今日の福祉援助は、困難を抱えた本人を中心にして、地域を基盤に行政、専門機関、地域住民、事業者などがネットワークを組んで、包括的に取り組んでいく事が求められています。

 「個と地域の一体的支援」の重要性を提起している大阪市立大学大学院の岩間伸之教授は、身近な地域である日常生活圏域における援助の意味を以下のように明らかにしています。

 「個人生活と地域社会は、きわめて密接な関係にある。この密接な関係というのは、双方向性の関係をもつ。つまり、地域の環境が個人生活に影響を与え、反対に個人の存在は身近な地域の環境にも影響を与えるということである。こうした個人と地域とを切り分けできないものとして一体的にとらえる視点は、地域福祉援助においても非常に重要な視点となる。個人や家族の問題解決に向けた取り組みは、当事者である個人や家族の変化だけでなく、同時に当事者たちと接点を持つ環境の側の変化も並行して促すことになる。」(「地域福祉援助をつかむ」有斐閣 P43)

 課題を抱える個人をその人の住む地域で援助すること、その援助に同じ地域に住む住民を巻き込み、一緒に取り組んでいくことは、個人の地域での住みづらさの解消につながっていくだけでなく、取り組んだ地域住民自身に確実に影響を与えます。その個人と同様な課題を抱えている他の住民の事への関心の広がりや、自分も含めた地域の今後予測される課題を意識していくこと、地域のつながりのあり様にも問題意識を発展させて、いわゆる「地域福祉力」の向上につながっていくというものです。

 大事なことは、福祉援助に取り組む私達自身が、課題を抱えている個別の当事者への支援をする過程で、その人を取りまく地域住民の関わりを意図的に働きかけて、相互の影響作用を高めて、地域を活性化させるという視点を持つことだと思います。

地域福祉セミナー

地域福祉セミナー(クリックで拡大)

 ライフサポート協会では、2011年6月から岩間伸之教授を座長に「地域自立生活支援研究会」を開催し、「個と地域を一体的に支援する援助」について学ぶとともに、住吉区北地域包括支援センターでの具体的な実践事例を検証する取り組みをすすめてきました。

 2年に渡る研究活動の一定のまとめとして、今年2月20日に市民交流センターすみよし北主催で「地域福祉セミナー」を開催することとなりました。(2月20日午後2時〜4時 市民交流センターすみよし北 ホール)

 「住み続けられる地域をめざして」をテーマに、1部では岩間教授の講演があり、2部では同教授をコーディネーターに、住吉区北地域包括支援センターの地域支援を通じて見えてきた課題や、一緒に関わっていただいている地域住民のかたからのご意見をいただくパネルディスカッションが予定されています。

 ぜひ、多くの方のご参加を期待しています。

 政治に左右される制度・政策ですが、目の前の個人への支援こそが私達のスタートラインであり、それを地域住民や関係機関などと一緒に取り組んでいく中で、地域社会が変わっていくことこそが、私たちのめざす所だという点に確信を持ちながら、今後も着実に取り組みを進めて行きたいと思っています。

地域福祉セミナーのお知らせ

  • 日時:2013年2月20日(水)午後2時〜4時
  • 場所市民交流センターすみよし北 ホール
    大阪市住吉区帝塚山東5-3-21
  • 参加費:無料(事前の申し込みは必要ありません)
  • お問い合わせ:市民交流センターすみよし北
    電話06-6674-3731
  • 案内チラシ(PDF)