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高齢者の住まいを考える

2014年7月9日

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

サービス付き高齢者向け住宅の建設ラッシュ

 最近、新聞折り込みで「サービス付き高齢者向け住宅入居者募集」のチラシをよく見ます。「サービス付き高齢者向け住宅」(以下、「サ高住」)とは、2011年10月に施行された「高齢者の居住の安定確保に関する法律」で、登録を義務付けられた高齢者向けの住宅のことで、バリアフリーで、原則25平方メートル以上の居室をもち、安否確認や生活相談サービスなどのサービスがついている民間マンションのことをさします。

 高齢者人口の増加を受けて、「サ高住」は制度ができてわずか2年半で148,632戸(グラフ(1)参照)が登録するという急成長を遂げています。超高齢社会を当て込んだ建設ラッシュによって、「メーッセージ」「ベネッセスタイルケア」「ニチイ学館」など10,000戸を超える規模で全国的事業展開を進める企業も出ている一方で、既存施設のM&A(合併買収)で規模拡大を狙おうという動きも活発です。「サ高住」は、既に住宅市場としては飽和状態に近づいている観があります。

グラフ(1)「サービス付き高齢者向け住宅の登録状況の推移」(第102回介護給付費分科会資料より)

グラフ(1)「サービス付き高齢者向け住宅の登録状況の推移」
(第102回介護給付費分科会資料より)<クリックで拡大します>

多様な住宅と入居者の実態

 国土交通省の「サービス付き高齢者向け住宅の現状と分析」(2014年3月末時点)によりますと、「サ高住」の設置法人は株式会社と有限会社で約7割を占めています。調査に回答した146,544戸のうち、居室面積が25平方メートル未満なのは75%で、その約6割は18〜20平方メートルとなっています。常駐する職員の4人に3人はヘルパー2級等の資格をもっているものの、4人に1人は無資格者ということです。「サ高住」が併設している施設はデイサービスや訪問介護、ケアマネ事務所等が多く、全体の8割が何らかのサービス事業所を併設していますが、残り2割は単独住宅となっています。

 一方、厚生労働省の調査によりますと、「サ高住」の入居者の平均要介護度が1.76、日常生活自立度では日常生活に支障をきたす認知症状を示す「判定基準II」以上が4割をしめています。80歳代が5割を占め、平均年齢は82.1歳となっています。(グラフ(2)参照)

グラフ(2)「サービス付き高齢者向け住宅の入居者の実態」(第102回介護給付費分科会資料より)

グラフ(2)「サービス付き高齢者向け住宅の入居者の実態」
(第102回介護給付費分科会資料より)<クリックで拡大します>

 このように、「サ高住」は多様な内容で提供されており、同時に入居者も自立から要介護5までの様々な高齢者がいることがわかります。

「サ高住」は高齢者の終の棲家となりうるか?

 2025年に団塊の世代が後期高齢者になることで爆発的な介護ニーズの増加や、都市部を中心とした独居高齢者世帯等の孤立化が問題になっていました。政府は「地域包括ケアシステム」の構築によって、効率的な医療と介護サービスの提供体制をつくることと、地域での住民同士による共助の仕組みづくり進めることで対応しようとしてきました。そして、「地域包括ケア」の前提に「安心して住める住居の確保」があり、「サ高住」はその基盤整備の役割を期待されてきました。

 しかしながら、「サ高住」がこの役割を果たして、高齢者にとって地域で最期を迎えられる終の棲家になるためには、多くの課題があるように思います。

 その第1の点は、終の棲家としての「サ高住」が、果たしてそれに相応しい医療と介護のサービスを提供できるのかということです。現在でも入居者の平均要介護度が1.76であり、今後着実に重度化していくことは間違いありません。しかし、何らのサービス施設も併設していない「サ高住」が5件に1件もあり、職員も4人に1人は無資格者という現状です。一方で、訪問介護や訪問入浴、通所介護等の介護サービスや訪問看護などの医療サービスを施設外部からの導入することに対して、現在の介護保険制度では「移動に係る労力が少ない」として報酬を減額しており、事業者の積極的な取り組みを抑制しています。

 数年後に、重度化した入居者が「寝かせきり」の状態で放置されかねない危険性をはらんでいると思います。

 さらに第2の点は、「地域で暮らし続ける」ことを意味する生活を実現できていけるのかということです。

 特養などの介護施設や地域密着サービスの小規模多機能や認知症対応グループホームなどは、地域に開かれた事業の展開を求められており、地域の催しや住民との交流を積極的に事業の中に取り入れてきています。特に、東日本大震災以後、地域防災の観点から施設や事業所と地域住民が一緒に防災訓練に取り組み、日常的な支え合いの関係を強める事の重要性が認識されるようになってきています。しかしながら、これらの取り組みに有料老人ホームや「サ高住」の関わりは極めて弱いといわざるを得ません。

 単に食事・排せつ・入浴の3大介護を受けて寝るだけの暮らしでは、地域での暮らしでないことはもちろん、人間らしい暮らしでもありません。日常的な暮らしの営みとしての買い物や散歩、趣味や生きがいの時間、様々な過程での地域住民や友人との交流、健康な時に自由に選択できた暮らしの継続を可能な限り保障することが「地域で暮らし続ける」生活の実現といえます。

 入居者を単なるサービスの受給者としてしまうのではなく、地域で暮らす主体者として、その人なりの地域における関係性と役割を支えることが施設職員に求められています。

 果たして、「サ高住」がこのような視点をもって入居者の支援に関わっていけるかということについては、残念ながら悲観的にならざるを得ません。

地域に開かれた「サ高住」のために

 以上のように、多くの問題を抱えた「サ高住」ではあるものの、既に14万戸を超える入居者がいるという現実を考えた場合、一刻も早く問題解決への政策転換を図る必要があると感じます。

 それは第1に、訪問サービス等の報酬減額をやめて、十分なサービスが入居者に行き渡るようにすることです。入居者の囲い込みなどによって利益を上げる事業者も出てくることが予想されますが、それの規制は別の方策で考え、なにより入居者支援サービスの確保が優先されるべきです。

 第2に、入居者の生活の質を高めるために、ケアマネジャーの援助計画の内容を指導することが求められます。これは「サ高住」に限らず、在宅サービスでのケアマネジャーの計画が一部のサービスに偏ったり、その人の暮らし全体を見たものになっていなかったりという問題点が指摘されています。行政による監査や指導も必要ですが、地域包括ケアのネットワークの中で、包括支援センターなどと連携しながら、地域で援助計画の見直しの取り組みを進めていくことによって、援助計画をより良いものに改善していくことが可能なのではないでしょうか。

 第3に、地域密着サービスで義務化されているように、「サ高住」においても入居者代表はもちろん、地域住民の代表や専門機関が入った「運営推進会議」の設置を義務化することです。他の集合住宅と違い入居者による自治機能が弱いため、入居者の権利を守る事が必要ですし、入居者と地域との関係を積極的につなげるためにも第三者の入った運営推進会議が定期的に開かれることは重要です。

 効率的な医療・介護制度を推進するために集合住宅を拡充してきた政府の意図を成果あるものにするためにも、入居する高齢者の人間らしい暮らしの実現が必要です。地域に支えられ、開かれた「サ高住」こそが、今後の課題だと思います。

低所得者への住宅保障が課題

 ただ、「サ高住」が全ての高齢者にとって適切な住居となりうるかは別な話です。

 「サ高住」の利用料は施設によって様々ですが、家賃・共益費・水光熱費・生活支援サービス費・食費等の基本生活費で15万円〜20万円は必要で、その他介護や医療のサービス費用を含めると一定の預貯金か年金額のある人でないと入居できないものになっています。

 低額の国民年金で暮らしを立ててきた高齢者にとっての行き場所は、現在、特養しかない状態ですが、介護保険制度の次期改正では特養を要介護3以上の高齢者しか入れないようにすることが予定されています。

 所得の格差は高齢者から安心できる住居の選択権を奪うことになりかねません。

 高齢者に関わらず、低所得者に対する家賃扶助制度を今こそ検討すべき時に来ているのではないでしょうか。