2014年12月24日
ライフサポート協会 常務理事 村田 進
今年12月に行われた第47回衆議院選挙は、自公政権の圧勝で終わりました。野党は民主党の微増、共産党の躍進を除き、各党議席を減らす結果でした。突然の「大義なき選挙」といわれましたが、争点は明確にならず、戦後最低の投票率(52.66%)で終わりました。
野党惨敗の結果をもたらした最大の責任は民主党にあります。「アベノミクスで景気回復」を訴える安倍政権に、明確な対立軸を設定することができないばかりか、小選挙区に前回選挙より100人も少ない候補者しか立てなかった結果、国民から選択肢を奪う結果となってしまったのです。
安倍政権は、総選挙を前に、来年10月の消費税10%への引き上げの1年半先延ばしを決定し、国民に信を問うとしました。この2年間、アベノミクスを掲げた「金融緩和」と「財政出動」によって、「円安」「株高」が進行し、自動車などの輸出産業と大企業などの大株主が巨額の利益を得ています。しかし一方で、中小企業の倒産が続出し、実質賃金が低下した国民の消費は落ち込み、社会の格差が拡大しました。
今年7月に厚生労働省がまとめた「国民生活基礎調査」によりますと、「相対的貧困率※」は16.1%で、子どもの貧困率も16.3%と、いずれも過去最高の水準になっています。これは日本国民の約6人に1人が月収約9万円以下の「貧困層」に陥っていることを示しています。とりわけ一人親世帯での貧困率は54.6%にも跳ね上がり、半分以上の一人親世帯(多くは母子世帯)が貧困状態になっています。
安倍政権は、アベノミクスによって雇用の拡大が図られ、完全失業率は53ヶ月減少し、雇用は前年に比べ33万人も増加したとしています。
しかし、厚生労働省によると、非正規雇用が毎年増加し、2013年には36.7%と、働く人の3人に1人以上がパートや契約社員等の非正規雇用となっています。しかも、40〜44歳の正規社員の平均時給が2,099円に対し、非正規社員は1,224円、短時間の非正規にいたっては1,021円と正規社員の半額となっています。
つまり、日本の貧困層の拡大は失業によってではなく、安定した賃金等の保障された雇用が減ってきていることによるものです。仕事に就いても、低賃金で、健康保険や年金など保障のない職場しかないところにあるのです。
安倍政権は、経団連や連合と賃上げについて会合をもっていますが、そこで対象になるのは正規社員にとどまっており、非正規社員も含めた全労働者への年金保険の適用等、正規と非正規の垣根を低くする改善策には全く手を付けようとしていません。
「女性活躍推進・少子化対策」を掲げている安倍政権ですが、低賃金の下で必死に子育てしている母親たちの暮らしを改善することなく、6人に1人の子どもの貧困を放置している現状をどう改善していくかが問われています。
かつて、民主党政権はアベノミクスに対する対立軸を提起していました。
2009年10月26日、民主党鳩山由紀夫首相は、所信表明演説で次のように述べています。
「私が目指したいのは、人と人が支え合い、役に立ち合う『新しい公共』の概念です。『新しい公共』とは、人を支えるという役割を、『官』と言われる人たちだけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などに地域でかかわっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それを社会全体として応援しようという新しい価値観です。」
鳩山首相は、「居場所と出番のある社会」、「支え合って生きていく日本」をかかげ、「競争」より「つながり」、一人ひとりが主人公として日本社会を変革していこうと国民に語りかけてました。残念ながら、その後の民主党政権は政権担当能力のなさを露呈させて崩壊していきましたが、当初に掲げた、国民が主人公の支え合う社会づくりこそが、今日の日本社会を救う道であるという政治の方向性は決してまちがっているとは思いません。
2015年4月には生活困窮者自立支援法が施行されます。これまでの高齢者や障害者などのタテ割り制度で対応しきれない複雑で多様な困難を抱えている住民を、地域で支援していこうというものです。その支援のキーワードは、第1に、「生きづらさ」と「社会的孤立」を抱えた住民を地域で総合的に支援していくこと、第2に、地域の住民も一緒に専門機関・事業者・行政等がネットワークを組んで支援していくことです。
2015年度の介護保険制度の改正では、「地域包括ケアシステムの推進」が本格的に取り組まれようとしており、政府の災害対策においても、災害時要援護者支援対策を身近な地域で立ち上げるべく指針が示されています。まさに、地域であらゆる人がつながり合って福祉に取り組んでいく課題が目白押しです。
行き詰まりを見せる日本社会の改革に、政治のリーダーシップが不可欠であることは間違いないのですが、一方で、今求められていることは、身近な地域で住民一人ひとりが参画して自分たちの町を住みよい地域に変えていく地道な取り組みではないでしょうか。そして、私たち社会福祉に関わる専門職は、困難を抱えた本人の権利を守る立場を厳守しながら、支え合う地域づくりの一翼を担う重要な役割を果たすべき時にきていると思います。
いよいよ地域福祉が社会を変える時代に入ってきました。