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広がる市民後見人の輪

2015年9月16日

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

 まだ残暑が厳しい9月初旬、上六のホテルで大阪市市民後見人連絡協議会の総会が開かれました。2007年に大阪市が市社協に委託する形で「大阪市成年後見支援センター」※を開設し、市民後見人の養成事業を開始して8年。2008年1月に大阪家庭裁判所に最初の市民後見人が選任されて以来、今や120人を超える市民後見人が全くのボランティアで大阪市内の判断能力に困難を抱えている高齢者や障害者の生活を支える活動に奮闘しています。

 「成年後見制度」は、判断能力が困難な人の財産権と選択権を保障するための制度として2000年に創設されました。それまで「行政による措置」で進められてきた福祉を、本人の人権を守ることを目的とした「福祉サービス」へと転換するとして2000年4月に社会福祉法が改正されました。同時にスタートした介護保険制度でも「利用者本位の選択」を前提にしましたが、判断能力に困難を抱えている人にとっては、その選択を保障する制度が必要となります。そこで、本人に代わって金銭管理などの日常生活を支援する「地域福祉権利擁護事業(2007年から日常生活自立支援事業)」と、本人の財産管理や契約を代行する「成年後見制度」が創設されたのです。

 成年後見制度には、本人の判断能力がまだあるうちに弁護士などと契約する「任意後見制度」と、判断が困難な本人に代わって、親族や自治体が家庭裁判所に申し立てて後見人を選任する「法定後見制度」があります。法定後見制度では,家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が,本人の利益を考えながら,本人を代理して契約などの法律行為をしたり,本人が自分で法律行為をすることを援けたり,本人が同意しないでした不利益な契約などを後から取り消したりすることによって,本人を保護・支援します。

 この法定後見制度では、配偶者や親族が後見人になる「親族後見」と、専門職・法人・市民による「第三者後見」がありますが、次第に第三者後見の割合が増えてきています。最高裁の資料によりますと、2014年の実績は親族後見が35%、第三者後見が65%で、その内訳は以下のようになっています。ここ数年で市民後見人が着実に増えてきているのがわかります。

市民後見人の人数

市民後見人の人数

第三者後見の内訳 後見人数
司法書士 8,716人
弁護士 6,961人
社会福祉士 3,380人
行政書士 835人
税理士 64人
精神保健福祉士 17人
その他法人 1,139人
社会福祉協議会 697人
市民後見人 213人

 厚生労働省は2011年度から2014年度にかけて「市民後見推進事業」を実施し、全国の市町村による市民後見人養成の取り組みを支援しています。とりわけ大阪市における市民後見人養成の活動は、大阪市成年後見支援センターを核に行政・社協・社会福祉士・行政書士・弁護士等の専門職が連携して、市民後見人をバックアップする体制を作り上げており、養成講座受講から実際の後見活動まで市民によるボランティアとなっている「大阪方式」として全国の注目を浴びています。この8年間で220人を超す講座修了者が市民後見人バンク登録を済ませ、うち半分以上が実際の市民後見人活動に従事しいています。

 「市民後見人」について、大阪市成年後見支援センター運営委員長の岩間伸之大阪市立大学大学院教授が以下のように定義しています。

 「市民後見人とは、家庭裁判所から成年後見人等として選任された一般市民のことであり、専門組織による養成と活動支援を受けながら、市民としての特性を活かした後見活動を地域における第三者後見人の立場で展開する権利擁護の担い手のことである。」(岩間伸之「「市民後見人」とは何かー権利擁護と地域福祉の新たな担い手」『社会福祉研究』第113号)

 今日の社会福祉の前には、「少子高齢化に伴う社会保障費の拡大と国・自治体の財政赤字」と「高齢者から子どもまで多様化・複雑化する福祉ニーズ」という2つの問題があり、これまでの行政や専門職がそれぞれの分野で取り組んで済む話ではなくなっています。地域包括ケアシステムの構築が課題となり、地域での行政・専門職・事業者の連携と地域住民が参画する福祉のあり方が問われています。

 しかし、この仕組みづくりに劣らず重要なのは、困難を抱える本人自身の思いや生活から出発する「本人主体の援助」を追求していくことです。「権利擁護」の課題も、虐待などの深刻な権利侵害に対処するだけでなく、福祉の本来の目的である本人らしい暮らしを地域の中で継続していけるように、本人と一緒に取り組みを進めていく「積極的権利擁護」が求められています。

 ともすれば市民後見人を「専門職による後見人の代替策」との考えるふしがありますが、実はまったくそうではなく、身近な地域で本人の暮らしを同じ地域住民の目線で日常的に支えてくれる市民後見人は、専門職や福祉サービス従事者に多くの示唆を与えてくれる大切な仲間です。

 また、市民後見人による本人主体の援助は、地域での住民による支え合い活動の中に援助の軸と根拠を与えることにつながり、地域活動の質を着実に高める役割を果たすことになるでしょう。

 市民後見人活動の広がりの中に、地域福祉発展への希望が膨らみます。

 第9期市民後見人養成講座がもう始まっています。