2016年9月23日
ライフサポート協会 常務理事 村田 進
先日、熊本で開かれた全国社会福祉法人経営者大会に参加しました。
大会の中心テーマは来年4月に施行される「社会福祉法人制度改革」にどう対応するかということで、「制度改革を好機として、存在意義を発信する」とのスローガンが掲げられていました。私も今年1月のコラム「社会福祉法人の果たすべき役割」の中で、「本人支援の質」と「地域福祉力向上」へのリーダーシップを取れるかどうかで社会福祉法人の真価が問われると書きました。
残念ながら、この経営者協議会の組織率は50%に満たず、まだまだ最低限の改革にすら着手せず、制度ビジネスのみに執着している法人も多いのが現実で、今後、社会福祉法人改革の第二弾が十分ありうる状況ではないかと危惧しています。
社会福祉法人改革での論議の中には、いまだ多くの疑問や混乱があるように思うのですが、以下、三つの点ついて考えてみました。
大会の分科会で、ある大学の先生が「社会福祉法人は非営利法人で、営利でない法人。そもそも利益は将来の費用と考えるべきで、非課税は当然である」という趣旨の講演をされました。
元々、1951年に社会福祉事業法によって極めて公益性の高い公益法人の一つとして創設された社会福祉法人ですが、措置時代を通じて事業は行政のコントロール下に置かれていました。しかし、2000年の社会福祉法以後、福祉がサービスとして利用者と法人の契約に基づく事業に変わり、株式会社等の民間事業者も参入するようになると、「福祉事業の経営責任」が社会福祉法人の大きな課題となります。また一方で、福祉サービスに参入したNPO法人も含めた民間事業者には事業利益への課税があり、社会福祉法人だけが非課税のままであることへの批判が出てきました。
今回の講演はこれに対する反論ですが、「社会福祉法人は非営利法人だから」という出自のみを根拠にする議論に無理があるように思います。例えば、新規参入したNPO法人も非営利法人ですが、彼らの収益にも税金がかかっているのをどう説明するのでしょうか?
非営利法人を意味するNPOとは、Not for Profit Organizationの略で、「利益(Profit)を目的としない法人」のことです。ならば、何を目的として創られた法人なのかということですが、非営利法人には法人理念があり、それこそが法人の目的となっています。
市場経済の中で活動する限り、「利益」は当然必要です。しかし、社会福祉法人にとって利益はその目的のために活用されるものであり、社会福祉活動を通じて実現する目標(法人理念)自体が極めて公益性の強いものなのです。近代国家の税の目的が貧困など社会困難を抱える人々を助けるために生まれた事を考えると、社会連帯の事業への課税はタコが自らの足を食うに等しいことであることは明らかです。
それでも、民間事業者も介護保険や障害福祉の在宅サービスという社会連帯事業に参入しているのに、なぜ課税なのかという疑問が残ります。
社会福祉法人のサービスが民間事業者と決定的に違う点は何なのか、法人理念に基づく法人事業の中身を積極的に明らかにすることが社会福祉法人に求められています。私は、本人主体のサービス、地域の支え合う力を高める地域福祉実践等、社会福祉法人の高い実践力こそが今問われていると思います。
改正社会福祉法では、「経営の原則」(第24条2)に「日常生活又は社会生活上の支援を必要とする者に対して、無料又は低額な料金で、福祉サービスを積極的に提供する」ことが義務として明記されました。地域の福祉サービス事業の中で歴史のある社会福祉法人が社会貢献事業で地域での役割を果たすことが期待されています。
経営者大会でも全国の多くの社会福祉法人が取り組んでいる社会貢献事業や地域活動が紹介されていました。低所得者へのサービス利用料の減免や、生活困窮者への生活支援物資の提供などの金銭支援、施設の交流スペースの開放や災害時の避難所等の施設ハードを通じた地域貢献などが取り組まれています。しかし、ここで問題は何のための地域貢献なのかという点です。単に場所やお金の支援にとどまらず、制度の狭間で苦しんでいる人びとへの積極的支援や、地域の福祉力を高めることをめざした活動であることが重要です。
とりわけ、専門職集団である社会福祉法人の地域貢献活動では、地域住民の支え合い活動を支援する過程で、住民に対し専門職としてのアドバイスや本人の立場に立った代弁的役割を通じて、本人と地域住民の新たな関係づくりに貢献することが重要ではないかと思います。
経営者大会では福祉人材の確保・育成についても議論がされていました。高齢化の進行等による福祉ニーズの増加を前に、介護等の福祉人材の確保は急務の課題です。しかし、介護現場につきまとう3K職場や低い給与実態等のイメージが先行し、福祉現場の離職率の高さも問題になっています。
人口減少社会に突入した日本ですが、労働者人口の減少に対し、民間企業は高い給与等の条件を掲げて人材確保に努力しています。しかし、抑制傾向の報酬基準によって福祉人材の大幅な処遇改善は厳しいのが現実です。介護等の人材難を前に、ロボットや外国人労働者の活用を掲げる意見もありますが、人を相手にする仕事である限りこの方策にも限界があります。
仕事のモチベーションを高める優先順位は「給与の高さ」より「働きがい」にあることは古くからの研究で明らかになっています。福祉の現場は生活に困難を抱えた人々を支え、その人らしい暮らしを実現していく極めて創造的な職場です。支援している職員が支援されている本人とのつながりを通じて多くの学びを得て、人間的成長を実感できる貴重な職業です。支援の過程で多くの専門職の仲間や地域の住民たちとつながり合える開かれた仕事です。問題は、大切な職員がそのような経験を重ねられるように支援し、指導する体制を社会福祉法人が保障しているかということです。
法人理念のために、人びとの幸せのために働く法人職員が、心から「働きがい」を感じられる職場になっているかどうかが問われています。
これらの社会福祉法人に求められている課題は、すべからく、法人設立の目的としての法人理念が日々の実践の中に活かされ、具体化されているかということにつながります。地域で困難を抱えた人を支え、その人らしい暮らしを専門サービスで支援しつつ、地域に支え合いの輪を着実に広げていくことによって、誰もが安心して暮らせる社会を創造するという社会福祉の目標を見据えた法人こそが「社会福祉法人」を名乗るべきではないでしょうか。
経営者大会に集った多くの仲間からの元気な実践報告を聞きながら、そんな思いを強く持ちました。