コラム「夢を抱いて」
2017年7月19日
ライフサポート協会 理事長 村田 進
大阪市を廃止分割する大阪都構想の新たな2案が新聞で報道されています。6月から始まった大阪都構想の法定協議会に提案されるようで、8月には大阪市による総合区案(大阪市を残したまま)もまとめられる事も含めて、来年夏の再住民投票をにらんで、大阪都構想か総合区かの論議がはじまります。
政令指定都市と道府県との「二重行政」問題は、戦前からの大都市と道府県との対立として長く議論されてきています。今回の大阪都構想や総合区では、地方財政赤字を解消し市民サービスを充実する上で、どう効率的な行政改革を進めるかという点で議論が進められています。大阪市政改革では情報公開や区政分権等の目立った成果を上げている一方で、市民サービスの向上を職員への「5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底」(市政改革プラン2.0 2016年8月)で達成しようという古い発想に限界を感じます。
職員合理化の点では、既に市職員数は3割削減され、給与水準も政令指定都市中下から3番目(2011年時点)というところまで抑制されています。しかし、政令指定都市の中で一番の予算規模(3兆8300億円)を持ち、日本一の生活保護率(5.3%)や高い独居高齢者世帯率(13.5%)等の増大する福祉ニーズへのきめの細かい取り組みが、限られた市職員だけでできるとはとても思えません。
市民をサービスの単なる受給者と捉えるのでなく、一緒に市政改革に取り組むパートナーとして連携する姿勢と方策が必要ではないでしょうか。
既に、大阪市の市政改革では「ニア・イズ・ベター」を掲げた住民自治の拡大が課題として挙げられ、地域活動協議会をはじめとする住民活動の促進策が各区で取り組まれてきています。区役所レベルで、「まちづくり」や「防災」「地域福祉」等、多様な取り組みを地域の住民と一緒に進めようとする動きが見られます。
しかし一方で、地域住民の側には、地域活動を進める上での様々な悩みが見られます。町会等の既存組織では「高齢化や若手人材の不足」、NPO等の新しい活動組織からは「地域組織の敷居が高く連携しにくい」、多くの地域住民は「気になることはあっても、どうやって関わればいいのかわからない」等の声があがっています。
地域やNPO等の活動組織にとっては、受託事業費の細かい行政チェックによって「行政の下請けをさせられている」という不信があり、行政に対しして対等な立場での連携や地域の活動を育成するという姿勢が求められています。
大阪市社会福祉審議会は今年3月に「地域福祉基本計画策定」の方針をまとめ、来年4月からの施行をめざして計画案策定に取り組みはじめています。
大阪市では2004年度から2011年度までの間、2期8年にわたって大阪市地域福祉計画を策定し、その後、2012年度からは大阪市地域福祉推進指針を策定して、各区毎での地域福祉ビジョンづくりを進めてきています。今回の方針は、各区での地域福祉推進は基本としながら、各区の取り組みをさらに強力に支援していくための市レベルの計画を策定しようというものです。また、計画期間も高齢者保健福祉計画や障がい者支援計画に合わせて来年4月からの3年間としています。
とりわけ注目されるのは、「総合的な相談支援体制の充実」という点で、(1)身近な地域で(小学校区を基礎)、(2)地域住民・専門職・事業者・行政等が連携して、(3)本人と一緒に生活困難課題を解決していく仕組み(システム)づくりを示していることです。社会福祉審議会に先駆けて2月に開催された「地域福祉専門分科会」の資料によりますと、地域での総合的な相談支援体制を充実させるために、4つの機能が必要とされています。
第1には、「身近な相談窓口機能」で、ケアマネージャーをはじめとした高齢者や障がい者、児童等への地域の日常的な相談支援に取り組む機関・事業者が窓口の役割を持ちます。第2には、「総合的な相談支援機能」で、複合化する福祉課題に対応するためにも、その相談に関わる機関・事業所・地域住民等を集めた「総合的な見立ての場」を組織する役割を持ちます。この際、例え包括支援センターのような機関がその役割を果たそうとしても、制度の枠を越えた支援を進めるために区役所行政によるバックアップと庁内各課の調整機能が伴う必要があります。第3には、「地域と連携する機能」です。コミュニティ・ソーシャルワーカーのように、日常的に地域住民と連携して、地域の福祉課題に一緒に取り組む活動が必要です。最後に、「地域におけるアンテナ受信機能」で、これは地域に住む住民活動家が担う機能です。地域住民自身が主体的に関わり解決していこうという取り組みの中から出てくる新たな地域福祉課題を、コミュニティ・ソーシャルワーカーと一緒になって専門職や行政につなぐ役割が求められています。
これらの機能を身近な地域で、当事者たる本人を中心に置いて取り組むことで、地域の中では支援が必要となる人に目が行き届き、早期の把握・早期の対応ができる「予防的アプローチ」が可能になり、専門機関にとっては個別ケア会議の強化により「施策横断的な支援」ができ、複合課題等の支援困難事例に的確な対応と課題解決が出来る仕組みにつながることが目指されています。
困難を抱えている人を支える活動を通じて、地域の課題をみんなで共有し、支援の経験を深め、地域での問題解決の道を探ることが大切です。その取り組みはいずれ「我が事」として、自分がたとえどんな困難な状況になっても、地域の人びとは支えてくれるし、自分にも何かの役割があるという「安心して暮らせる地域」づくりにつながっていくのではないでしょうか。
住民自治には様々な形がありますが、どれだけ社会の多様な個人を尊重するかが自治の質を深めることになります。まずは一人ひとりの思いを大切に、互いを思いやれる関係を暮らしの中でつくること、地域の個別の実践を評価し、広げていくところから始めることが大事です。
地域を拠点に、当事者と住民、専門職や事業者、行政等が連携して取組む「地域福祉」の活動が今後の地方自治体のあり方を示すものになるのではと思っています。