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コラム「夢を抱いて」

社会福祉法人の現状に“喝!”

2017年7月19日

ライフサポート協会 理事長 村田 進

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 先日、三重県で開かれた全国社会福祉法人経営者大会に参加してきました。

 ここ数年の社会福祉法人改革の議論は、今年4月の社会福祉法改正をもって一定の整理がついた形となっています。今大会での基調提案でも、「制度改革の形ができたが、その実践が問われている」と強調され、「社会福祉法人の原点に立って、地域共生社会実現のイニシアティブをとろう」と訴えていました。

 提案が強調する危機意識の背景には、経営協が行った「全国生活者1万人意識調査」での驚くべき結果がありました。社会福祉法人を「知っている」人がわずか22%、「信頼できる」「経営が安定」等のプラス評価の割合が一桁台だったのに比べ、「問題が多い」「閉鎖的」等のマイナス評価が倍以上に上っていました。社会から見える社会福祉法人の姿にしっかりと応える実践が求められています。

 ところが、同基調提案によりますと、今回の社会福祉法改正で社会福祉法人に義務化されたいわゆる「地域における公益的な取組」の実施(第24条2項)について、行政提出の「現況報告書」に実施記載が半分もないという状況だということです。

 この驚くべき危機意識のなさは一体どこから来るのでしょうか?

 社会福祉法人は全国で2万近くありますが、そのうち従業員数30人未満の小規模法人が6割を占めており、100人未満の法人が9割と、圧倒的に中小企業の事業体となっています。1法人1施設という先代・先々代から受け継いだ「家業」のような社会福祉法人が多い実態があります。

社会福祉法人の規模観

 一方、社会福祉協議会・共同募金会・福祉事業団を除く、いわゆる民間の社会福祉法人は、1990年時点で10,130法人だったものが2012年には17,328法人に約1.7倍に増えています。これは、介護保険法創設に象徴される政府の社会福祉サービスの整備をにらんだ施設運営ビジネスへの参入が急速に進んだ結果です。

社会福祉法人数の推移

 法人経営に当たる役員の中の「家業意識」と「福祉ビジネス意識」が、本来、社会福祉法人が取り組まねばならない地域福祉課題への無関心に影響を与えているのではないかと思います。

 社会福祉法人制度改革の目玉であった「経営ガバナンスの確立」で、特に理事会が現場重視の機能的なものになった点を評価されていますが、果たして理事会がソーシャルワークの現場の視点をもって政策判断できているのかが問われてきます。経営ガバナンスを「安定経営」の視点だけでとらえ、法人事業利用者の支援に欠かせない地域福祉に思いが至らないとすれば、この機能強化はむしろ単なる業務効率化や職員処遇の悪化につながりかねない危険性を感じます。

 社会福祉法人の直面している状況を打開する議論が展開された大会でしたが、その際に強調された「社会福祉法人の原点に立ち返る」という視点に違和感を覚えました。

 戦前の社会福祉制度も何もない中で、私財を投げ打って困窮する人々の支援に当たった先人の姿勢に立ち返るべきとの意見でしたが、果たして今日の社会福祉法人にとって、そのような姿勢がもとめられているのかは疑問です。

 社会事業に取り組んだ多くの先輩の志は高く評価されるべきですが、同時に、その多くは恩恵・慈恵の精神によるものであったのも事実です。「地域公益事業」を一般企業の「社会貢献的事業」と同様に捉えたり、地域が困ってるなら協力しましょう的な上から目線で、地域に法人施設や資金を提供することは、社会福祉法人への誤解を生み、むしろ地域福祉にとって大きなマイナスにしかなりません。

 社会福祉が人権と同じ言葉で語られ、地域共生社会の実現をめざすものとされる中で、社会福祉法人には、地域の全ての人が参加し、「お互いさま」の支え合う地域づくりに住民が主体的に取り組む活動を支援することが求められています。地域と対等な立場で地域の課題に関わり、解決に向けて一緒に汗を流す事、生活困難を抱える人を地域で支える活動を専門的な見地から支援することが重要で、その際、社会福祉法人が持つ施設(場所)と専門職(人材)が地域に大きな貢献を果たすことになります。また、事業所でもある社会福祉法人は、様々な人の就労保障や生きがいの場を提供できる組織でもあります。生活困窮者自立支援法に基づく「中間的就労」の場を身近な地域で提供できる「認定就労訓練事業所」としての登録・実践などは直ちに取り組める課題です。

 社会福祉法人に対する批判は、まだ第1段階に過ぎません。今日の社会福祉に求められている役割を果たせない社会福祉法人は舞台から退場せざるを得ない第2段階が迫っているという見方は、果たして考えすぎでしょうか?