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コラム「夢を抱いて」

地域福祉のめざすところ

2018年1月22日

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 2000年の社会福祉法改正時に初めて法律に明記された「地域福祉」。いまや医療・介護・福祉のあらゆるところで「地域福祉」が当たり前のように議論・実践されるようになっています。様々なかたちで取り上げられる「地域福祉」について、考えてみました。

1.財政危機を背景にした「上からの地域福祉」

イラスト

 2018年度政府予算案で社会保障費は32兆9千億円に上り、33.7%を占めるに至っています。国債費を除いた政府が使える政策経費(74兆4千億円)の44.3%を占め、地方交付税交付金の多くが自治体の社会保障財源に運用されている事も含めると、実に政府予算の半分以上が社会保障に費やされていることが分かります。

 超高齢化社会を前に社会保障給付の自然増は避けられず、団塊の世代が75歳の後期高齢者になる2025年の社会保障給付額は、介護保険制度が発足した2000年の1.9倍にのぼると予想されています。

 一方で、国債総額は865兆円にのぼり、これ以上の借金をしない為に社会保障費の削減圧力は増しています。政府の打ち出した「地域包括ケア」や「我が事丸ごと」政策の背景にこのような財政危機があるわけですが、公費削減のために地域住民の助け合い活動を促す「上からの地域福祉」が進められようとしています。

2.複雑化・多様化する福祉課題への対応に必要な「地域福祉」

 1999年に政府が決定した「社会福祉の基礎構造改革」では、「社会的援護を要する人々」という概念が明らかにされました。社会福祉制度が整備される一方で、福祉の援助からこぼれ落ちた人々が存在し、地域の中で孤立している現状への取り組みが必要と提起しました。ストレスやアルコール依存などで「心身の障害や不安を抱えた人」、ホームレスや外国人など「社会的排除や摩擦に晒されている人」、孤独死や自殺、家庭内の虐待や暴力など「社会的孤立や孤独に陥った人」、これらの人びとに対し、これまでと違う福祉援助のあり方が求められました。

 生活上の多様な課題を従来の制度の縦割りではなく総合的に支援すること。役所などの相談機関に来るのを待つのではなく、地域に出向いて孤立している人びとの相談に乗ること。その為には、同じ地域に住む住民の参加と協力を得ながら、深刻な事態になる前に支援に取り組むこと。地域から排除されている現実を踏まえて、福祉援助の中心に「本人」をしっかり置いて、本人の人権を支えるという原則をふまえること。つまり、舞台は「地域」、主体は「本人・住民」の地域福祉の取り組みが求められています。

3.人が人らしく暮らせる地域を生み出す「地域福祉」

 1960年代アメリカでグループワーク理論の「相互作用/媒介モデル」を打ち立てたシュワルツは、個人と社会の関係を「共生的な相互依存関係」と規定しました。本来、個人は社会と対立する関係ではなく、対等でお互いに支え合う関係にあるが、病気や障害等によって個人は社会とこれまで通りの対等な関係を保てない状況に陥る。ソーシャルワーカーは媒介者として個人と社会に働きかけ、新たな段階での対等で支え合う関係を回復するのを支える役割を持つとしました。

 人は生れ落ちて一年間、他者による絶対的保護なしには生き抜くことはできません。成長してからも全ての事を自分一人で判断したり実現するわけでなく、社会の様々な協力を得ながら、また、自分自身も役割を果たしながら暮らしていく社会的存在です。地域の困っている人を励まし、住民に支援を働きかけ、本人が地域の一員として新たな関係を築くことを支援する専門職の役割は大きいのですが、なにより、その活動を通じて、地域の偏見や排除を抑制し、住民の中に「もし自分が困った状態になっても受け止めてくれる地域にしたい」という人々を増やすことが大切で、地域福祉の目標はそこにあると思います。

4.住民を中心に行政・専門職等、本人を支援するあらゆる人が地域で協働すること

 昨年末から大阪市地域福祉基本計画(素案)のパブリックコメントが募集されています。素案では、基本目標に「みんなで支え合う地域づくり」と「新しい地域包括支援体制の確立」が据えられ、「住民主体の地域課題の解決力強化」「多様な主体の参画と協働の推進」「地域における見守り活動の充実」等の施策の方向性を打ち出しています。これ自体は素晴らしい内容ですが、いざ具体的に実践するとなるといくつかの問題があるように思います。

 例えば、地域の見守りや相談支援の体制は、①区段階での整備で、小学校区のような住民に身近な地域になっていない、②区役所や相談機関が中心の取組みで、地域住民の見守り活動を中心に専門家と行政が支える形になっていないという問題があります。

 地域福祉は、地域住民という当事者による町づくりの取り組みであり、住民自治活動につながるものです。身近な地域に地縁団体だけでなくNPOなどの多様な活動グループ・事業所を巻き込み、行政・専門機関も一緒に地域の課題を話し合う場をつくることが地域福祉を進める上での喫緊の課題だと思います。
 既存の地域活動協議会や地区社協を地域福祉を進めるラウンドテーブルにできるかどうか、そのカギは「要援護者見守り支援活動」の地域運営委員会の組織化あたりにあるようです。