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コラム「夢を抱いて」

介護人材確保~事業者の姿勢が問われている

2018年9月26日

ライフサポート協会 理事長 村田 進

イラスト

 最近の朝日新聞に「介護人材不足」に関する二つの記事が掲載されました。
「介護実習生 日本語要件緩く」(8月28日)と「介護危機 技術が救うか」(9月16日)という記事です。一つ目は外国人の介護実習生が日本で働くために必要な日本語試験の要件を緩和しようという国の動きについて、二つ目はITやロボットの導入で介護労働者の負担軽減を図る動きについて、それぞれその効果と問題点を取り上げていました。

 介護人材の不足は以前から問題になっていますが、日本経済の好況下でますます深刻な状況が生れています。有効求人倍率(就職希望者1人に何人の求人があるかを示したもの)は、全産業の1.36に対し介護人材は3.02と倍以上で、都市部はさらにひどく、東京都5.4、愛知県5.3、大阪府4.2と慢性的な人手不足となっています。その結果、入居待機待ちが多いといわれる特養でも、職員定数を満たせずにやむなく入居制限をかけて一部を空室のままにせざるを得ないところも出ています。

 介護保険制度が始まった2000年の介護職員は55万人でしたが、制度の定着によって2015年には3倍以上の183万人に急増しています。国の予測では、団塊の世代が後期高齢者になる2025年には253万人が必要で、これまでの増加率で予測される215万人と比べて17%に当たる38万人が不足するとされています。

  一方、少子高齢化の結果、2005年以降、日本は人口減少社会に突入しており、総務省の発表によると2016年の労働力人口6,648万人が2025年には6,149万人に約50万人減少すると予想されています。全体の働く人が減る中で、どうすれば介護人材が増える可能性があるのか、真剣に考える必要があります。

 国は社会保障審議会の検討委員会で介護人材確保方針を取りまとめました。「2025年に向けた介護人材の確保~量と質の好循環の確立に向けて」(2015年2月)がそれで、①参入促進、②労働環境・処遇の改善、③資質の向上という3つのアプローチで、すそ野の広い介護人材の構造転換を目指すとしています。介護人材を「介護福祉士」「研修等を修了し一定の水準にある者」「基本的な知識・技能を有する者」の3つの人材層に分けて、役割分担を行うこと。処遇改善加算等を通じて給与の引き上げ、ロボットやITを活用して職場の環境改善を進める等の総合的な改革を2025年を目指して中長期的に取り組むとしています。外国人実習生の条件緩和もこれらの一環として進められています。

 そもそも介護人材が不足している背景に何があったのでしょうか。

 ひとつは介護の現場が3K職場(きつい・汚い・給与が低い)といわれる実態であったことです。夜勤等の不規則な労働時間、腰痛等の職業病、排せつ介助等介護労働に対するマイナスイメージがあり、マスコミ等による否定的な報道が社会的評価を著しく下げることにつながりました。

 低い社会的評価は若者の進路選択に直接影響を与え、親や教員の指導でも介護職への忌避感で介護の専門学校は大きく定員割れを起こしています。

 国の対策は介護人材確保を総合的に検討している点で評価できますが、実際にあと7年で不足する30万人以上の人材を確保するためには優先順位を明確にした取り組みが必要ではないかと思います。

 処遇改善加算による給与アップはとりあえずの効果を生んでいますが、同じ職場にいる相談職や専門職には加算がなく、職場賃金のバランスを取るため多くの法人が持出し負担をしています。保険制度を導入する中で、介護事業者の経営能力を求めたにもかかわらず、限られた職種の賃金のみに限定する加算方式は、かつての措置制度に等しく、事業者の経営努力に水をさすものです。加算ではなく基本報酬を上げ、人材確保は事業者の努力に委ねることが必要です。

 また、冒頭記事の外国人実習生の活用ですが、EPAや技能実習生で介護に従事している外国人は13,500人に過ぎず、就労期間の制限もあって介護人材の補てん対象には考えられません。日本全体の労働人口確保の観点からみれば、移民受け入れ政策と日本国民として受け入れる社会統合政策とセットで議論しなければ意味をなさないように思います。

 介護職員と他の業種との賃金格差では、40~42歳の平均賃金と勤続年数を比較した場合、サービス業とではあまり差はなく、なにより全産業の半分の勤続年数しかない結果、賃金が低い状態になっているのが分かります。

 

 全産業

 サービス業

 介護

 賃金

40.8万円

27.2万円

26.7万円

勤続年数

11.9年

7.9年

6.3年

(2016年賃金構造基本統計調査より)

 2015年の社会福祉士・介護福祉士就労状況調査によりますと、介護人材の離職理由は1位が「業務での体調」で、2位が「事業所運営のあり方」、3位が「職場の人間関係」、4位に「収入が少ない」、5位「労働時間・休日・勤務体制」となっています。また、この仕事を選んだ理由については、1位が「通勤が便利」ですが、2位には「やりたい職種・仕事内容」があがっています。

順位

現在の職場を選んだ理由

 %

順位

過去の職場を辞めた理由

 %

1位

通勤が便利

41.4%

1位

業務での心身の不調

27.1%

2位

やりたい職種・仕事

39.1%

2位

事業所の運営への不満

25.7%

3位

労働時間・休日等

31.5%

3位

職場の人間関係

25.0%

4位

能力・資格が活かせる

31.3%

4位

収入が少ない

23.6%

4位

正規職員で働ける

31.3%

5位

労働時間・休日等

21.1%

(社会福祉振興・試験センター「H27年度社会福祉士・介護福祉士就労状況調査」より)

 介護という仕事を「やりたい仕事」と思いつつも、厳しい労働環境のなかで諦めてしまっている貴重な人材をどう現場に戻ってもらえるのか、ここに問題解決のカギがあると思います。2013年における介護福祉士登録者数が119万人に対し、介護に従事しているのは55%の66万人にとどまっています。何らかの事情で職場を離れている50万人の介護福祉士を再度現場に戻ってもらえる方策をまず第一に考える必要があります。その際、離職理由の2位に「事業所の運営への不満」とあるように、人のために尽くしたいという思いを持った人材を活かすことができていない事業所の運営のあり方に注目する必要があります。

 一人ひとりの利用者を尊厳をも持って支援しようとする運営方針と、それに関わる職員を大切な人財として処遇するだけでなく、研修・教育で資質向上をサポートする体制、職場のチームワークを育む指導等の法人事業のあり方が求められているように思います。

 施設や専門人材を活かした地域にとって欠くことの出来ない貴重な社会資源として積極的に地域と交流し、働きかけている法人は、地域住民の介護職に対するイメージ変革に大きな役割を果たすことができます。また、忙しい介護職の業務を整理し部分的に切り出すことで、地域の元気高齢者や主婦等の人材ばかりでなく、障がい者をはじめ多様な支援つき就労者を介護現場に引き受けることにもつながります

 介護の現場が単に専門職によって抱え込まれた職場としてではなく、利用者を真中に多様な人材が交流する新しい社会空間を創りだすことをめざして努力していく時代が来ているように思います。