pagetop

文字サイズ:小 中 大

コラム「夢を抱いて」

人としての役割をもてる地域

2018年11月28日

ライフサポート協会 理事長 村田 進

イラスト

 鹿児島県の住宅型有料老人ホームで、10月から1カ月ほどの間に入居者6人が相次いで死亡していたとの報道がありました。行政が調査に入った時には8人いた介護職員全員が退職し、30数人の入居者がいるにもかかわらず、夜勤は高齢の施設長一人が行っている状況だったとのことです。

 老人福祉法にもとづく有料老人ホームの6割を占める「住宅型有料老人ホーム」に人員配置基準はなく、介護・食事提供・家事供与・健康管理のうち1つでも外部からも含めて提供され、都道府県に届け出れば開設できるようになっています。

 この施設の場合、「介護職員が退職した」とのことなので、施設が介護を提供することを契約上に明記されていたことになり、施設長しかいない状況は明らかに体制基準違反です。しかし、多くの死者を出したことについて、運営法人の代表がテレビで「医療面に関して言えば、これだけやれば文句を言われる筋合いはないと思いますよ」と答えているのを見て、「福祉の市場化」がこんな人を対人援助の世界に招き入れてしまっていることに激しい怒りを覚えました。

 生活に不安を抱えた独居高齢者が増えている中、地域とつながりがなく支援体制の脆弱な有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅の乱立が、虐待や事故などの問題を生みかねないことを4年前のコラムで指摘してきました。

 高齢者の住宅ニーズを「商機」と捉え、多くの事業者が参画してきましたが、既に市場は飽和状態にあり、M&A等による大規模事業化や富裕層向けの高級ホーム等の勝ち組の一方で、小規模のままで取り残された事業者が問題になってきています。後者は職員確保もままならず、収益性の悪化から職員処遇を抑制した結果、職員退職を招く悪循環に陥りつつあります。行政は認可責任を果たすべく、早急に高齢者住宅の実態を調査すべきで、不適切な運営施設の閉鎖、入居者の周辺施設への移転を急ぐ必要があります。

 超高齢化社会の進行による社会保障費の増大を受けて、国は「地域包括ケアの推進」や「地域共生社会の実現」などの方針を掲げ、地域で暮らすことを目標にした制度改革をめざしています。「縦割りでなく総合的な相談支援」「地域での医療介護の連携支援」「地域住民も参画した互助活動の拡充」等、困難を抱えた人を地域でどう支援するかという点が政策の眼目です。しかし、その視点は、ともすれば支援する側からのものとなり、本人は絶えず支援を受ける側で、せいぜい希望を述べるだけの立場に置かれているのではないかと思えてなりません。

 人間は社会とのつながりの中で生きていける存在です。社会と一定の関係を保ち、一人の人として何らかの役割を認められてはじめて生きる喜びにつながっていくものです。人が地域で暮らす上で必要なのは、雨露をしのげる住居と日常生活を送れる介護等の支援だけではありません。地域の人々との関わりを通じて、名前を持った○○さんとして認知され、地域で自身の役割を持てることが大切なのです。

 私たち福祉に従事する者は、単なる介護や支援に止まらす、たえずその人らしい地域での人のつながりや役割を維持できるように努めなければなりません。

 地域での役割を考える上で、最近「働く」という切り口で新しい取り組みが広がってきています。障がい者が働く際、従来は企業などでの「一般就労」と、そこには至らない人々への公的支援のついた「福祉就労」が主なものでした。1970年代末以降、ヨーロッパを中心にそれとは違う「第三の就労」としての「ソーシャル・ファーム」が広がってきました。2008年に日本で設立されたソーシャルファームジャパン理事長の炭谷茂さんはソーシャル・ファームの特徴を以下のように定義しています。

①一般就労が困難な人への働く場の創設、②困難を抱えた人と一般の人が対等の関係 で働く場、③ビジネス的手法を基本とする事業、④生活適応訓練、職業訓練機能を併せ 持つ職場、等。

 従来の就労の概念を広げたソシャル・ファームを参考に、「地域で働く」ということを「地域で役割を持つ」と捉えてみると、実に多様な人々が多様な働き方をしながら、地域での豊かな人間関係を広げていけるのではないでしょうか。

 私たち福祉事業者は場所と事業を持って活動しており、地域に働く場を作る上で大きな役割を果たすことが可能です。例えば、当法人の特養(「なごみ」)は今年春から業者による調理をやめて、フロアでの自家調理に切り替えました。調理パートには地域の高齢者や子育てママさんを採用し、近い将来、障がい者の就労訓練の導入も予定しています。フロアでの調理には入居者さんが関わることもありますし、子育てママさんの作業中に入居者さんがお子さんをあやされている光景も見られます。

 堺市では有料老人ホーム1階のスーパーを障がい者の就労継続事業(「るぴなす」)で当法人が受託し、そこを拠点に自治会や地域のNPOと共同でまちづくりの活動をはじめています。

イラスト

 法人が運営する障がい者作業所製品のアンテナショップ(「らふら」)では、ユニクロの端切れ提供を受けてミシンメーカーや芸大生のコラボでかばん等を製作・販売を企画しており、この製作自体を地域の子育てママや住民の仕事にしてしていくことを目指しています。

 地域での見守り活動や生活支援活動も単なるボランティアではなく、「地域通貨」を活用した事業やコミュニティ・ビジネスにつなげている地域もたくさん生まれていきています。

 どんな人でも役割を持って、支え合って暮らせるまちこそが「地域共生社会」であり、 そんな地域を作るために私たち社会福祉法人は存在するのだと思います。