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コラム「夢を抱いて」

日本社会の変革につながる社会保障改革を

2019年3月26日

ライフサポート協会 理事長 村田 進

(1)2040年を展望した社会保障改革論議

 今年3月、政府の社会保障審議会が4年ぶりに開かれました。団塊の世代が後期高齢者を迎える2025年をターゲットにしたこれまでの社会保障改革論議に対して、高齢者数がピークを迎える2040年頃を展望する新たな社会保障改革についての議論が始まりました。この新たな改革論議の背景には、2つの大きな社会的変化が予測されています。

 第1には、団塊の世代ジュニアが高齢者入りし、社会保障給付費が190兆円(GNP比24%)という過去最高のレベルに達することが見通されている点です。今秋の消費税増税だけではとても担いきれない規模に対し、審議会では「これまでの給付と負担の見直し等による社会保障の持続可能性の確保」策に引き続き取り組むとしています。しかし、限られた社会保障財源の範囲で「持続性を確保」するためには、保険料や自己負担割合を高めて収入を増やすことと、介護保険制度での軽度要介護者を対象から外す等の支出の抑制が避けられません。さて、これらの社会保障削減の内容に国民の合意は得られているのでしょうか。

 第2には、2025年以降は「高齢者の急増」から「現役世代の急減」に日本社会の局面が変化するとみられる点です。2025年から2040年にかけて高齢者の人口が6.6%増であるのに対して、生産年齢人口は▲16.6%と大幅に減少すると予想されています。審議会では「高齢者をはじめとして多様な就労・社会参加の促進で健康寿命の延伸」と「テクノロジーの活用等で医療・介護サービスの生産性向上」により対応するとしています。例えば、医療・介護サービスの就業者数見通しては、2025年から2040年にかけて従来の計画ベースでは134万人増となるところを、上記の「健康寿命の延伸と生産性向上」等でわずか4万人増にまで抑制するとしています。この期間で全就業者数が699万人減少することを考えれば、あまりに希望的観測にすぎない計画だといえます。

(2)国のあり方全体を見据えた抜本改革の必要性

 社会保障審議会の議論がこのように抽象的なものに止まっているのは、従来の政府の政策枠を超えられないために他なりません。いまやGDPの4分の1を占めるに至っている日本の社会保障を維持していくためには、これまでの社会のあり方を抜本的に見直す大胆な政策転換が不可欠となっています。

 それは主に2つの政策転換が求められています。
 第1には、社会保障財源の確実な確保と社会保障の無償現物支給による「安心して暮らせる日本社会への転換」です。消費増税と所得税の累進強化等で社会保障財源をしっかり確保し、医療・介護・教育のサービスの無償化によっていざという時にも安心して暮らせる、「自己責任社会」からの転換が必要です。

 第2には、外国人労働者に社会を開き、安定的な労働人口を確保するとともに、労働条件の適正化は当然のこととして日本社会の一員として暮らしてもらえる社会環境整備と文化的保障によって、多様な人々が暮らす多文化共生社会への転換です。

 いずれも極めて大きな政策転換であり、政治の課題であるため、実現は簡単なものではありませんが、グローバル経済の下で経済成長が見込めない日本社会が生き残るためには、これまでの社会の在り方を抜本的に転換する道が求められているのは間違いありません。

(3)「地域共生社会の実現」は社会福祉法人の使命

  昨年4月に改正された社会福祉法は「全世代型社会保障の推進」「我が事、丸ごとの地域づくり」「地域共生社会の実現」を推進することを目指したものでした。高齢者から児童まで全ての住民を対象に、困難を抱えている人々を早期に発見し、制度の縦割りを超えた包括的支援の仕組みを地域に作ることで、支え合って暮らしていける地域社会をつくろうという画期的なものです。

 このことは本来、全ての社会福祉法人の課題であり、①専門職の連携協働のネットワークづくり、②地域住民の支え合い活動への支援を追及していくことが求められていますが、そのためには大きく2つの実践課題が考えられます。  

 第1には、身近な地域での多様な支援者の連携・協働の場を作ることです。小学校区をエリアとする地域活動協議会レベルでの「地域住民」「専門職」「事業者」「行政」等が参画する「地域福祉推進会議(仮称)」を組織し、そこが恒常的に当該地域の福祉課題に取り組むという地域福祉推進の仕組みをつくることです。

 いま一つは、生活困難を抱えている人々が地域で「自分らしい役割」を持てる多様な「働く場」(ソーシャルファーム)を作っていくことです。福祉当事者と地域住民との自然な交流や協働作業の中で、本人は自尊心を、住民は人権意識を育み、一人ひとりを同じ人間として自然と尊重し合う風土がまちづくりにつながります。

 地域で福祉事業を展開する社会福祉法人は専門職と施設という社会資源を持っており、これを有効に活用することで地域福祉推進に大きな役割を果たすことが求められています。

(4)地域福祉を通じて日本の住民自治を発展させる道

 今年4月7日は4年に1度の統一自治体選挙の日ですが、大阪では大阪都構想の行き詰まりの結果、府・市の議会議員に府知事と市長の「ダブル選挙」が行われる事態となっています。

 かつて大阪都構想を掲げた橋下前市長は、一方で「ニアイズベター」を掲げて多様な人材が参画する地域活動協議会を地域団体として推奨していました。しかしながら、補助金の使い道や管理ばかりに意識が行き、多様な組織構成員による唯一の住民自治組織として条例で規定することはしませんでした。その結果、多くの地域活動協議会が旧来の連合町会の焼き直しの状態に留まってしまい住民自治組織には遠い存在のままです。

 大阪市を廃止する都構想は論外にしても、改正地方自治法に基づく「総合区」案などは、これまでの「中之島一極主義」を排し、区を中心に地域住民の声を反映させた市政を実現する可能性を秘めたものでした。選挙の結果によってこの改革議論がどうなるか予断は許しませんが、少なくとも地方自治体が活性化するためには、住民が主体となって自分達のまちづくりに取り組む住民自治組織は不可欠です。日本の基礎自治体である市町村は1741団体(東京23特別区含む)ですが、フランスの基礎自治体である「コミューン」は3万5千を超えています。社会福祉で「身近な地域」と呼ばれる小学校区は全国で2万か所であることを考えれば、先述の多様な組織代表による「地域福祉推進会議」は、将来の基礎自治体の議会に向かう一つの実験となるかもしれません。

参考