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コラム「夢を抱いて」

社会福祉法改正20年〜社会福祉に何が求められているか

2020年1月24日

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 今年は2000年に社会福祉法がスタートして20年になる年です。

 敗戦後制定された社会福祉事業法(1951年)を半世紀ぶりに抜本的に改正して生まれた社会福祉法には2つの大きな意義がありました。第1には、「福祉は権利」と位置付けたことです。それまでの行政による「措置」として行われた福祉事業は、対象を生活に困窮した人に限定して、定められた支援を一方的に与えるというものでした。社会福祉法では福祉をサービスとし、それを利用する人の利益保護を目的と位置付けて、主体を利用者本人に置くことに転換したのです。

 第2には、「地域福祉の推進」を打ち出したことです。従来の行政と社会福祉法人による限られた福祉事業ではなく、地域住民はもとより、福祉事業者、行政等、多様な関係者が参画して地域の福祉課題の解決に当たる必要性を規定し、自治体にはそのための地域福祉計画の策定と推進を義務付けたことです。

社会福祉法20年の成果

 この20年で「福祉は権利」を実現するために様々な取組が重ねられてきています。本人の意思決定を支援するための成年後見制度や、高齢者・障がい者・児童等への権利侵害を防止するための虐待防止法などが制定されました。障害者自立支援法から障害者総合支援法へ難病患者含め対象者の拡大がすすみ、義務的経費として国の予算枠が広がりました。ホームレス支援法から生活困窮者自立支援法へ社会的に孤立した若者や困窮者への支援、幼稚園・保育所・認定こども園の整備や無償化などの子ども・子育て支援制度等、高齢者中心から全世代型社会保障への転換が進められています。

 また、「地域福祉の推進」では、自治体に義務付けられた地域福祉計画は全国の市の91%、町村の62%が策定済みで、多くの地域住民が策定に参画しています。身近な地域を基盤とした「地域包括ケア」等、関係事業者の連携が進み、地域包括支援センター等の制度もつくられました。地域支援コーディネーターの制度や地域の支えあい活動を支援するコミュニティソーシャルワーカーの導入に取り組む自治体も増えてきています。2018年の社会福祉法改正では「我が事丸ごと」の地域住民が参画して地域での支えあい活動を強化して地域共生社会をめざすという方針が出ています。

 高齢化社会の進行と、これら社会福祉政策拡充の結果、政府予算における社会保障経費は大きく伸びています。2000年の政府予算と比較すると、2020年政府予算全体が118.7%なのに対して、社会保障経費は213.7%と2倍以上になっています。その結果、政府予算における社会保障経費の割合が35.5%と全体の3分の1を超える状況に至っています。

  一般会計支出 社会保障経費 社会保障費の割合%
2000年度予算 84兆9800億円 16兆7600億円 19.7%
2020年度予算 100兆8700億円 35兆8100億円 35.5%
予算の伸び% 118.7% 213.7%  

制度改革の陰に課題

 社会福祉法が定めた福祉のサービス化を推進するため、事業者を広く株式会社等の民間法人に開放しました。しかし、民間法人の一部には、利用者利益よりも事業の収益優先で不当なサービスを押し付けたり、利益が上がらなくなれば安易に事業撤退したりといった問題を引き起こすところが出てきました。非営利のはずの社会福祉法人の中にも、公的制度による事業しかせず、本来の地域連携や収益性の低い社会貢献事業には無関心な法人も出てきました。

 一方、これまで措置業務で福祉を担ってきた自治体行政は、民間事業者や当事者家族に対応を丸投げして、利用者に向き合った相談対応から手を引く傾向にあります。また、住民や家族も新たに整備された福祉事業制度を「使って当たり前」、「その道のプロに任せた方がいい」と事業者に依存し、それまで自分たちが果たしてきた助け合いや心の支えという大切な役割から手を引くようになっていきました。

 しかし、これらのマイナス面を伴いつつも、「福祉は人権」「地域で取り組む」という今日の社会福祉の目標は着実に推進されつつあります。

いま社会福祉に求められていること

 そもそも社会福祉法の改正がされた背景には、少子高齢化に伴う日本社会の人口減少という社会構造の変化がありました。また、経済のグローバル化のもとでの国際競争激化で、日本型雇用システムが行き詰まり、失業者や非正規労働者の増加等で社会的格差が大きく拡大していきました。生活困難を抱えた人を従来の社会福祉の仕組みや体制では対応できず、家庭、地域や企業というこれまでの社会福祉を補ってきた機能も力を失い、人々は地域社会で孤立していきます。その結果、全てを自己責任のもとで抱え込まされ孤独死や自殺、ごみ屋敷など自らの内に籠もる事例や、より弱い人々への虐待や殺人などの社会的事件を引き起こす事例が頻発するようになりました。

 不安定化する日本社会にあっては人々の誰もが生活困難に陥る可能性があり、それを解決するためには行政や福祉事業者だけに頼っていられない社会の現実をどう変革するかが社会福祉の課題となっているのです。

 

 この20年の取り組みで課題は明確になりつつあります。第1に、多様な社会的課題に対応するための制度の狭間を越えた支援の連携が必要です。第2に、なにより近隣住民の日常的なかかわりが課題解決に大きな力となります。自分がどんな状態になっても、近隣住民が関係を切ることなく、付き合ってくれる地域社会をつくることが求められています。

 住民自身が地域の困りごとを拾い集めて、自分に関わることとして地域で話し合い、行政や事業者などと一緒になって解決策を探していく、いわゆる「地域福祉」の活動が求められています。施設や専門職を抱える社会福祉法人は、そのような活動の輪を広げるために「集まれる場づくり」や「課題を考えていく上でのアドバイス」、「制度・仕組みにつなげる支援」などで大きな役割を果たせると思います。

 地域住民や事業者、NPO等多様な人々が、自分たちの地域を暮らしやすくするために取り組む活動が必要で、それこそが住民によるまちづくりです。そして、互いを支える地域福祉の活動こそが、人々のつながりが失われ孤立化していく日本社会の危機を救い、社会の基盤をつくるかけがえのない取り組みになるのではないかと思うのです。