コラム「夢を抱いて」
2020年7月26日
ライフサポート協会 理事長 村田 進
今年6月5日、参議院で改正社会福祉法が成立しました。法律名は「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」(2021年4月施行)。
今法改正の一番の目的は、「地域に包括的な支援体制をつくること」にあります。地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズに対応する包括的な支援体制を市町村に作ることで、既存の相談支援等の取り組みを活かしつつ、「相談支援」、「参加支援」、「地域づくりに向けた支援」の事業を通じて継続的な伴走支援を実現しようというものです。
この間、福祉の相談支援で「8050問題」といわれるケースが多発していました。80歳代の高齢者の相談の過程で、実は50歳代の息子が同居しており、しかも数十年の引きこもり状態にあることが判明。息子は障害認定も受けておらず、既存制度では生活保護以外の支援策がなく、行政に相談窓口もない状態でした。そこで、政府は2015年4月から生活困窮者自立支援制度をスタートさせ、市町村に制度に当てはまらない困窮者への支援を求めました。
ところが、相談支援の現場では、依然として市町村の制度縦割りの予算や体制が幅をきかせ、実際の支援にとって大きな壁となっていました。今回の改正は「対象者の属性や世代を問わない」総合的な相談支援の仕組みを作ろうというものです。
この法律による支援事業は、市町村の手上げに基づく任意事業とし、一体的な執行ができる交付金を交付するとしています。地域福祉に積極的に取り組んでいる市町村にとっては有効な事業となるはずですが、さて、どれだけの市町村がこれに応じてくれるのか注目したいところです。
大阪市では2014年8月に「相談支援体制のあり方プロジェクトチーム」を設置。各分野の相談支援機関の実態調査を踏まえて、2017〜18年度の2年間、市内3区でモデル事業を実施。2019年度から全区で「総合的な相談支援体制の充実事業」を実施しています。具体的には、区保健福祉センターが中心となり「総合的な支援調整の場(つながる場)」を開催し、関係機関と連携して複合的課題を抱えた人への相談・支援に取り組んでいるとのことです。
この間、地域福祉を進めていく上で、いくつかの大切なポイントが指摘されています。
第一に、縦割りを超えた相談支援体制を構築すること、第二に、行政・専門機関の連携によるアウトリーチ支援に取り組むこと、第三に、早期発見に向けて地域住民が積極的に関わる活動を行政・専門職が支援することです。そして何より、これらの支援活動が困難を抱えた本人の住む身近な地域で展開されることです。
現在の大阪市の取り組みは、上記の指摘を踏まえるといくつかの課題が見えてきます。
第一に、地域包括エリア等の住民に身近な地域での相談ではなく、区役所単位でのケース会議にとどまっていること、第二に、専門相談支援体制だけで、当事者や地域住民の主体的参加を促す取り組みになっていないこと、第三に、地域の福祉活動を支援する取り組みとつながっていないこと等の問題を残しています。何より「支え合う地域づくり」を市民と一緒に作り上げていこうという戦略的発想が感じられません。今後、改正社会福祉法の主旨を受けた大阪市としての方針が問われています。
かつて住吉区では地域防災対策とセットで「要援護者地域見守り支援システム」をスタートさせ、地域包括支援センターと連携した「区見守り支援室」とコミュニティソーシャルワーカーによる総合相談体制、住民の地域支援員による住民支援活動、これらを連携した取り組みが始まりました。残念ながら、現在はこのシステムが十分機能しているとはいいがたく、区の「総合的な支援調整の場(つながる場)」に呼ばれる一支援機関となってしまっています。
この11月には大阪都構想の住民投票が行われ、賛成多数で大阪市は解体され4つの特別区に分割されようとしています。身近な地域を住民が支えあう共生社会に変えていこうという日本の社会福祉改革とは対照的に、大阪は効率性ばかりを優先した都市に変わろうとしています。困難を抱えた人々の声がますます無視されようする社会でいいのか、その声を社会に届けるために存在する社会福祉従事者は改めて活動の原点に返る必要があるのではないでしょうか。