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コラム「夢を抱いて」

改革に逆行する大阪都構想案

2020年9月25日

ライフサポート協会 理事長 村田 進

二度目の住民投票

 大阪市を廃止し4つの特別区を新設するいわゆる「大阪都構想」(案)が、大阪府・大阪市両議会の賛成多数で可決されました。11月1日には大阪市民による二度目の住民投票が実施され、賛成多数で大阪市は解体されることになります。

「ニア・イズ・ベター」の橋下改革

 かつての橋下元市長による市政改革は、「ニア・イズ・ベター」をスローガンに中之島本庁中心の市政から、より身近な区に分権を進めようとしました。24区長を市長直属の「シティマネジャー」として位置づけて局長以上の権限と一定の予算を与え、住民が参画する区政会議等を活用しながら24区それぞれ独自のカラーを打ち出した取り組みを競わせました。また、地域福祉計画の分野では、大阪市全体で「大阪市地域福祉基本計画」を策定し、各区における地域福祉計画づくりを進めてきました。

 高齢者や外国籍住民の多い生野区では、「くらしの相談窓口いくの」生きるチカラまなびサポート事業や「生野インターナショナルオープンフォーラム(仮称)」の開催、行政情報の「やさしい日本語」「多言語化」の推進、外国語表記の防災マップ作成、区広報紙を使った外国籍住民の紹介などに取り組んでいます。

 地域活動を重視する東淀川区では、各地域での課題解決やニーズに沿った地域版計画の策定に取り組み、既に「いたかの地域」「豊新地域」「新庄地域」などで「地域保健福祉計画」づくりが進んでいます。

 地域福祉活動に取り組んできた住吉区では、防災対策も兼ねた要援護者に対する「住吉区地域見守り支援システムを」創設し、配置されたコミュニティソーシャルワーカーが地域住民と一緒に支え合う地域づくりに取り組んでいます。

 若者や子ども達への支援にも取り組む平野区では、地域の代表者が一堂に会した「地域福祉を考えるラウンドテーブル」を組織して、とりわけ「ひらの青春生活応援事業」「みんな食堂ネットワーク拠点事業」などの独自事業に取り組んでいます。

 低所得の単身高齢者が多い西成区では、「単身高齢生活保護受給者の社会的つながりづくり事業」(ひと花プロジェクト)や「ほっと!ネット西成」の取り組みなど、地域と連携する窓口(かけはし)の充実を図ろうとしています。

 これら各区における実践例を見ても、橋下元市長が打ち出した「ニア・イズ・ベター」は、10年の時を経て着実に成果を上げてきています。

改革に逆行する都構想

 今回の「大阪都構想」では、大阪市を4つの特別区に分解することで、より身近な行政を目指すとしています。これまでの区役所を「地域自治区」として残すことで住民サービスの低下を防止し、地域住民による「地域協議会」を設けることで地域ニーズに応えることが出来るとしています。

 しかし、よくよく都構想の中身を見てみると、「ニア・イズ・ベター」とは大きくかけ離れた課題が明らかになっています。以下、いくつかの象徴的な問題点を見てみます。

 まず第一に、「地域自治区と地域協議会の設置」についてですが、地方自治法では市町村と政令指定都市に設置できるとされているのみで、特別区に明確な規定はありません。

 第二に、仮に拡大解釈で設置できるとしても、地域自治区に縦割りを超えた包括的な観点と権限を持った「シティマネジャー」はいません。先に示した通り、既存の各区は個性的な地域の取り組みを進めてきています。都構想の案のままでは、特別区長が区内に新たに作られた5から7の地域協議会からの要望に対応することになり、24区長が対応していたこれまでに比べて、行政対応のスピード感は遅れ、地域の当事者から離れたものになってしまいます。

 第三に、介護保険事業の運営が一部事務組合では地域の声が届きません。高齢者福祉の中核である介護保険事業は、「地域密着サービス事業」の創設や「地域ケアシステム」の推進にみられるように、当事者により身近な地域で、住民と事業者と行政が一体となって取り組むとこが求められています。先ほどの各区の例を見ても明らかなように、地域のニーズは多様で、大阪市域一律の運用では無駄や不具合が問題になっています。都構想の「一部事務組合」で事業運営をすることで、介護保険料の市域内での不均衡を抑えることにはつながりますが、住民ニーズに沿った運営が難しくなるのは間違いありません。

地域共生社会の実現につながる自治体改革が必要

 今年4月に改定された社会福祉法は「地域共生社会の実現」をめざすとしています。福祉の当事者だけでなく、どんな人でもその人らしく地域の一員として暮らし続けることが出来るように、住民・行政・事業者等が一緒になって取り組むことが求められています。改革論議が続いている大阪市は地方自治体であり、本来その目的は「市民が安心して暮らせるまちづくり」であり、そのために「地域住民が参加し助け合う仕組みづくり」にあります。

 「ニア・イズ・ベター」はそのための枠組みであって、大事なことは地域住民や当事者の声を第一にする自治体への改革にあります。

 住民投票で問われるべきは、現行の都構想案を可決するかどうかではなく、大阪市をまっとうな地方自治体にどう改革していくかにあるのではないでしょうか。