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コラム「夢を抱いて」

住民当事者主体のまちづくりこそが地方自治

2020年11月25日

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 大阪都構想についての二度目の住民投票は、僅差による否決で終わりました。

 住民投票の否決を受けて、松井大阪市長は、「広域行政一元化」と「総合区制度導入」の条例案を来年2月の市議会に上程すると発表しました。「広域行政一元化」で府・市の二重行政を解消し、「総合区制度」でニア・イズ・ベターを推進し、実質上の都構想を実現しようというものです。

 総合区制度は、大阪市を維持したまま区長の権限を強化して、住民サービスの拡充を図る狙いがあるとされ、1回目の住民投票否決後に、公明党が8区の総合区設置案として提案しました。しかし、2019年の府知事・市長のダブル選挙で維新の会が勝利した後、公明党はこの案を取り下げ、都構想賛成に回っていました。

 今回、公明党はもちろん、自民党も現状の24区を総合区にするなら賛成としていますので、「総合区」をめぐる市政改革論議は、具体的に始まるようです。

市政改革は住民自治の拡充のためにこそ

 そもそも、「総合区制度」導入の目的が「ニア・イズ・ベター」で、「住民サービスの充実」にあるとされていますが、これはどういう意味でしょうか?

 住民に身近な行政区とすれば、現行24区の方がいいに決まっていますが、あえて8区に合区するのは、人材配置をはじめとした「行政効率化」の必要性からでしょう。一方、「ニア・イズ・ベター」は、単に区役所が近くにあるから便利という程度の意味ではなく、「地域のことは地域で決める」という「地方分権」や「住民自治」につながるものです。

 住民サービスの充実は政治家や行政にお願いし、住民は単なる「サービス受給者」であってはなりません。サービスの充実には当然お金が必要で、限られた自治体財源のことを考えると、切実なニーズから優先順位をつけて取り組まねばならず、その際、関係者当事者による話し合いが必要です。問題は、当事者である地域住民が、自分たちのまちのことに責任をもって関わることが出来る仕組みづくりにあるといえます。行政課題について、「企画」「実行」「評価」の過程に住民が参画していくことが、時間と手間はかかるものの、最も行政効果が上がり、結果としての行政効率も上がると思います。

 総合区制度を決めた改正地方自治法(2016年施行)では、市町村が「都市内分権」としての「地域自治区」と「地域協議会」を設置できるとしています。以前、公明党が提案した総合区8区案でも、旧24区を「地域自治区」とし、地域住民による「地域協議会」が設置され、総合区の区長に政策提案権を持つとされていました。つまり、「総合区導入」は、住民自治を拡充するために、身近な地域の問題を、住民自身が参画する仕組みづくりと一体のものとして考えることが重要なのです。

住民自治の拡充に必要な課題

 住民自治を拡充する上で、現実的には、いくつかの課題があります。
 ひとつには、「住民の声をどう公平に集めることが出来るか」という「正当性」の問題です。首長や議員は、選挙で選ばれた代表という正当性がありますが、現在、各区に置かれている「区政会議」の委員は、公募委員も含め区長が指名して選ばれており、本当に区民の声を代表したものになっているかは不明です。新設される地域協議会の委員を、選挙で選ぶのが一番ですが、実際はなかなか難しいと思います。

 大阪市立大学の斎藤幸平准教授によりますと、欧米では、昨今の気候変動危機への対応策を市民代表で議論し、政府に政策提言する「気候市民議会」というものがあるそうです。フランスの場合、150人規模の「市民議会」が、専門家のレクチャーを受けて議論し、2030年までの国の対策案を提案したのですが、その構成委員は、年齢、性別、学歴、居住地など、実際の国民構成に近い割合で「くじ引き」で選ばれたとのことです。

 二つ目は、「地域活動のなり手が少ない」という「人材確保」の問題です。都市部を中心に地域のつながりの希薄化が進み、地域組織として歴史のある町会への加入率は低下し、町会役員や民生委員などの地域活動に取り組む人材の高齢化が進んでいます。大阪市の場合、小学校区単位に「地域活動協議会」を設け、構成団体をPTAやNPO、福祉事業者等に広げて、町会中心の地域活動からの脱却をめざしていますが、幅広い人や組織の力を集めて活動している地域活動協議会は、まだまだ少ない状況です。

 構成団体が対等な関係で活動できること、多様な活動を通じて気軽に地域活動に関われること等の仕掛けが必要です。大阪市は、そのような地域活動を支援するため、「新たな地域コミュニティ支援事業」に基づいて、各区役所に「まちづくりセンター」を設置し、一般財団法人大阪市コミュニティ協会等に事業を委託しています。しかし、1年の期限付きで採用された任用職員が中心の支援事業の評価は低く、形ばかりの状態にとどまっています。地域活動を支援する中間支援組織が長期的視点を持って機能するには、まずは、しっかりとした財政的補償で支援体制を整備することが必要だと思います。

 三つ目は、地域の課題に関わる様々な機関や人をつなぐ「調整機能」の問題です。介護保険事業などの高齢福祉においては、地域住民や関係機関の連携を調整する中間支援機能を「地域包括支援センター」が担っています。地域ケア会議に関係機関のみならず、地域の民生委員や本人とつながりのある地域住民等に参加してもらい、一緒に支援策について議論していますし、介護教室などを開いて地域の福祉活動に関わる人材の発掘につとめています。障がい福祉や生活困窮者支援などの福祉課題でも、同様の中間支援機能を持つ組織が行政から委託を受けて活動していますが、残念ながら、それらの中間支援組織が「地域」でつながって、住民と一緒に支援に取り組むためのコーディネート機関が存在していません。本来、その役割を果たすのは行政であり、社会福祉協議会なのですが、残念ながらそれを担える人材が不足しており、機能していません。

 社会福祉の取り組みでは、「当事者主体」がすべての基礎となっています。問題を抱えた当事者のニーズを支援すること。当事者が同じ地域の住民として役割を持ちながら暮らし続けていけるように、地域での新たな関係を作り上げていくのを支援すること。それらの支援のために、専門職だけでなく地域住民や事業者、行政・関係機関が日常的に連携して取り組み、誰もが安心して暮らし続けることが出来る「地域共生社会」をめざしていくことが課題となっています。

 社会福祉法の掲げる理想と、現場自治体との乖離に暗然たる気持ちになりますが、「総合区制度」検討の過程で、住民主体のまちづくりに向けた仕組みが、少しでも前進することを期待します。