コラム「夢を抱いて」
2021年1月11日
ライフサポート協会 理事長 村田 進
昨年十一月の大阪都構想をめぐる住民投票の結果によっては、幻の基本計画になるところだった大阪市地域福祉基本計画案(以下、「基本計画案」)。大阪市存続の結果として提案されている基本計画案は、現在、パブリックコメントの公募中で、今年四月から三年間の大阪市の地域福祉における基本目標・方針を示すとしています。
基本計画案によりますと、「『地域共生社会』の実現が重要であり、そのような地域づくりを育む仕組みへと転換していく改革が必要である」(基本計画案P1)という国の方向を受けて、「より地域の実情に応じた、きめ細かな施策を充実させ・・・各区の地域福祉を推進する取り組みを、さらに強力に支援していく必要」(同P2)があるとしています。三年前に策定された大阪市地域福祉基本計画(第一期)を基本に、この間、地域防災や新型コロナ対策などの課題を受けて、第二期の基本計画では、「人と人とがつながりあい、支えあい、だれもが自分らしく安心して暮らし続けられる地域づくりをめざします」(同P2)としています。
その上で、基本計画案は二つの基本目標を設定しています。基本目標の第一は、「気にかける・つながる・支え合う地域づくり」(同P89)で、施策の方向性として「住民主体の地域課題の解決力強化」「地域福祉活動への多様な主体の参画と協働の推進」「災害時等における要援護者への支援」をあげています。基本目標の第二は、「だれでも、いつでも、なんでも言える相談支援体制づくり」(同P103)で、施策の方向性として「相談支援体制の充実」「地域における見守り活動の充実」「権利擁護支援体制の強化」を掲げました。
基本計画案は、国の「地域共生社会にむけた地域づくり」という地域福祉の基本課題を掲げてはいるものの、昨年の社会福祉法改正の眼目である「包括的相談支援」「地域住民参加支援」「地域住民活動支援」を一体的に推進する「重層的支援体制の構築」という視点が欠落しています。その結果、基本計画案では従来取り組んできた個々の支援策の強化がばらばらに提案され、大阪市が地域づくりをどう効果的に取り組むかという基本戦略が示されていません。
「包括的相談支援」では、区保健福祉課が中心となる「総合的な支援調整の場(つながる場)」を中心に、「地域参加支援」では、区社会福祉協議会(以下、「区社協」)が事業受託している「見守り相談室」とコミュニティ・ソーシャルワーカーが取組み、「地域住民活動支援」では、区社協の地域支援担当職員が取組むとしています。しかし、この間すでに取り組まれてきているこれらの事業は、残念ながらさしたる効果を上げることもできずにいます。
問題は、それぞれの取り組みをどう「地域づくり」につなげていくかの方策がない点です。財政的な余裕がない状況下で、地域福祉を推進していくためには、バラバラな事業の展開ではなく、制度を横串するコーディネート機能を適切に位置づけ、より有効な活動に再編する戦略が求められているのです。
地域福祉は、地域住民と行政・専門機関等が連携して取り組む「地域づくり」をめざしますが、それはなにより、困難を抱える当事者が住む「身近な地域」(主に小学校区)での地域づくりを意味します。身近な地域での早期発見、総合的な相談支援、制度内外にわたる生活支援、地域での相互の関係づくりが、どんな人でもその人らしく暮らせる共生社会の実現につながります。地域に関わる専門機関が、これらの地域での取り組みを調整・推進していくコーディネート機能を果たすことが重要です。
これまで、身近な地域での包括的な相談支援の実績をあげてきている「地域包括支援センター」を、介護保険制度の枠を超えた「地域福祉コーディネート機関」として明確に位置づけ、見守り相談室に位置付けられているコミュニティ・ソーシャルワーカーを再配置するなどの必要な体制整備と関係機関との連携調整が出来る権限を明確にすべきです。
基本計画案は、社会福祉法で地域福祉推進の中心的担い手として規定されている「大阪市福祉協議会」(以下、「市社協」)を準行政機関と位置づけ、様々な事業を委託して連携を強化するとしています。しかし、率直に言って、現在の市社協は求められる専門機関としての役割を果たすには、明らかに人材不足の状態です。重要な役割を担うべき担当専門職の多くが非正規職員や経験不足の人材が担っている状況で、地域福祉の現場での混乱と停滞を生んでしまっていると言わざるを得ません。大阪市の地域福祉推進のためには、市社協の改革は避けられません。現状の職員体制を維持するための委託事業から撤退し、市社協の有能な人材を区社協の地域福祉活動に重点配置して、区の地域福祉推進に重要な役割を果たすべきです。
身近な地域での取り組みから出てくる課題を整理し、地域住民の活動を支援・調整しながら、地域資源の開発とネットワーク化する地域福祉活動は、本来、区社協の役割です。地域包括支援センターや「見守り相談室」と連携して、区の「総合的な支援調整の場(つながる場)」の事務局として、区社協は区の地域福祉推進のコーディネート機能を果たす中間支援機関に立ち戻る必要があります。
社会福祉にとって大きな課題は、制度の狭間に陥った人々への支援でした。それゆえ、社会福祉の現場では地域で包括的相談支援が不可欠と、専門機関による連携支援が取り組まれてきました。しかし、常に問題となるのは制度を管理する行政の縦割り姿勢でした。地域福祉を推進するには、行政が縦割りの壁を越えて柔軟に対応できる庁内連携体制ができるかどうかが大きな課題となっています。基本計画案は、この点について全く触れていません。
地域福祉推進のためには、区レベルで制度を超えた判断・調整ができる、例えば副区長のような管理者がリーダーシップを取り、課長会議を通じて課題調整ができる体制を明確にすべきです。
また、介護保険制度や障害者自立支援制度などで民間事業者による相談支援体制が取り組まれるようになると、行政は住民の相談を事業者に丸投げし、職員は書類上の管理にとどまりがちになっています。基本計画案は、「行政職員の専門性の向上」を課題としていますが、その方策は「研修の充実」が主なものとなっています。むしろ、職員には担当地域を定め、地域ケア会議などに積極的に参加して生の相談支援の現場を経験させることが必要です。ともすれば「行政=お上」意識が残る日本社会にあって、自治体職員が市民の悩みに敏感に反応できるためには、現場体験がなにより効果的です。
これまで身近な地域での福祉活動は、住民が中心の地区社協によって担われてきました。一方、ニア・イズ・ベターの市政改革の中で、従来の町会に対し、「地域活動協議会」が提唱され、地域住民以外の福祉施設や企業・学校・NPO等の地域で活動する様々な団体も加盟した幅広い視点での「まちづくり」を目指す取り組みが進められてきました。
ところが、基本計画案では、地域福祉活動が従来の地区社協や町会などで中心的に取り組まれていると述べるにとどまっています。「地域づくり」をめざす地域住民活動を積極的に進めるためには、多様な構成団体が民主的に運営される「地域活動協議会」を行政パートナーと位置付け、その「福祉部会」を地域福祉活動の中核機関として取り組んでもらうようにすべきです。
身近な地域では、地域活動協議会を中心に住民の地域福祉活動が展開され、地域包括支援センターが各専門機関と連携した包括的相談支援に取り組みつつ、その支援活動の中に地域住民の参画を図ることで、支えあう地域づくりを目指します。
区では、区社協が地域包括支援センターや様々な相談支援機関と連携し、支援策の共有化や福祉人材の育成に取り組み、区行政とともに必要な制度改革等の課題を明らかにして区の地域福祉の推進に取り組みます。
区行政では、副区長を先頭に庁内連携体制を確立し、区民の多様なニーズに柔軟に対応できる体制を整え、地域福祉に取り組む専門機関の活動を支援していきます。地域との連携を深めるために、地域担当行政職員を配置するとともに、行政サービスの外部委託を民間事業者から地域に精通したNPOや地域活動協議会等に計画的に移していき、区行政の「市民営化」に取り組みます。
地域福祉は、住民が自分たちの暮らす地域を誰もが住みやすい町にしていこうというものです。助け合いだけでなく、誰もが人として尊敬される地域にするためには、住民一人ひとりが関り、責任を負う取り組みにせねばなりません。住民自治や民主主義は、住民主体を徹底し、深めていく中でこそ発展していきます。そして、このプロセスを一貫して支え続けることがソーシャルワーカーの使命なのです。