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コラム「夢を抱いて」

コロナ禍で見えてきたもの
〜身近な支えあいの積み上げから

2021年7月

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 新型コロナウィルス感染症が「第5波」を迎えようとしている日本。主会場の東京で過去最高の感染者が予想されるなど、数々の懸念を抱えながらオリンピックが開催されています。昨年3月のオリンピック延期決定以降、政府の掲げる「安全・安心の大会」を実現すべき戦略的方針は示されず、次々と起こる事態に振り回されてきた印象しかありません。極めつけは、森前組織委員会会長や小山田楽曲担当の人権侵害問題に適切な対応が遅れるなど、オリンピック・パラリンピックの基本理念をすっ飛ばした「開催ありき」の姿勢が多くの市民に幻滅を広げています。

新型コロナ感染症対策に後れを取ったのはなぜか?

 7月19日の朝日新聞によると、新型コロナ感染症の「第4波」(3月〜6月)の間、緊急事態宣言下の10都道府県で、少なくとも51人が自宅や宿泊療養施設で亡くなっていたことが明らかになっています。このうち最も多かったのは大阪府で、19人の命が入院治療を受けられずに亡くなりました。大阪府では5月上旬に自宅等の療養者が2万人を超え、病床ひっ迫の中、入院率は一時10%を下回る「医療崩壊」ともいえる状況でした。「第5波」を迎えようとしている今、医療体制整備とワクチン接種の促進を急ぐ一方で、なぜこのような事態を招いてしまったのか深刻な総括が求められています。

 かつて厚生行政を長年務めたのち環境事務次官で退官され、現在、済生会理事長の炭谷茂さんは、新型コロナ感染症対策で「行政体制」「研究体制」「医療体制」の3つに油断があったと述べています。 (すみりんニュースNo.76 2021年1月15日公益財団法人住吉隣保事業推進協会)

 炭谷さんによると、厚生行政の半分は感染症対策といわれるほど、かつての厚生省トップには感染症行政の経験が必須であり、保健所も感染症対策のために設立されました。しかし、1975年以降、次第に行政の重点が、がんや心臓病、脳卒中等の生活習慣病に移っていき、一方、財政難による行政改革で、2020年には保健所の数がかつての半分にまで削減されてしまいました。これは、国立感染症研究所等の研究機関でも同様で、今日的な感染症対策に対応できる状態でなかったとのことです。医療体制でも、2016年の地域医療構想推進の過程で、生活習慣病対策を中心とした病院再編が進められ、感染症対策を意識しないまま大切な公的病院の削減が行われたと指摘されています。

「自助」に委ねられたコロナ対策が厳しい社会的格差を広げている

 そもそも、感染症対策の基本は、感染した人を早期に発見し、社会から病院に隔離し、治療を行うというものです。しかし、新型コロナ感染症への対応では、早期発見の武器であるべきPCR検査を戦略的に活用する点で消極的でした。その結果、次から次へと拡大していく感染状況の後追いで、もともと感染症対策が弱体化していた保健・医療の体制をひっ迫させる事態が生じました。政府による戦略的な感染対策はなく、コロナとの闘いの大半は、国民に「社会活動の自粛」を求めるだけでした。しかも、政府の新型コロナウィルス対策分科会の尾身会長が、『人々の行動制限だけに頼るという時代はもう終わりつつある』(7月15日参院委員会)と、この期に及んで発言するなど、政府専門家といわれる人達の「見識」にあきれるばかりです。

コロナ感染拡大の元凶のように営業自粛を求められ続けている飲食店に対し、自粛協力金の補償は遅々として進んでいません。コロナ下での企業や個人事業者の倒産は激増し、帝国データーバンクによると、6月の関連倒産は1737件で、去年(265件)の6.5倍にものぼっています。事業収益の悪化が進む中、真っ先に切られるのは非正規労働者です。野村総研によると、コロナ禍で非正規雇用の失業者が増加し、女性92万人、男性40万人の130万人以上の実質失業者が発生しています。そして、その多くをひとり親家庭の女性が占めていいます。生活資金などの特例貸付は236万件にのぼり、最大200万円まで貸付を受けてしまった世帯に対する新たな給付金制度(月10万円までを3か月給付)も作られていますが、収入確保のめどがつかない状況では年末に危機がやって来るのは明らかです。
一方、東京商工リサーチの集計によると、株高の影響もあり、上場企業で1億円以上の役員報酬を得ている役員は544人にのぼり、前年より11人増えているということです。
明らかに日本社会における格差が大きくなっています。これらの社会問題は、やはり政治の無策が生んでおり、格差を改善し安心して暮らせる社会を実現する政治が求められています。そこで選挙による選択となるわけですが、国民の期待を背負える政党が見当たらないというのが残念なところです。

まずは自分たちの周りに「支え合いの輪」をつくろう

 日本は変わらないし、もうどうにもならないと諦めるのではなく、また、信頼できる政治家が現れるのをただ待っているのではなく、一人ひとりが自分たちの周りでちょっとした助け合いの輪を作っていくことが大切です。

 高齢者のふれあいサロンや子ども食堂など、地域のつながりを広げる様々な活動が、コロナ感染予防で一気に閉鎖されました。しかし、逆にコロナ禍で「人のつながりの大切さ」を多くの人が実感したのも事実です。地域でもなんとかこれまでのつながりを絶やさないようにと、個別訪問や電話相談など様々な工夫をこらした活動が展開されています。

 生野区では、一般社団法人いくのもりによる「ワクチン受けにいくのプロジェクト」と称するワクチン接種活動が展開されました。65歳以上の高齢者に対し地域のボランティアと巡回医師団が身近な地域の会館でワクチン接種を行うもので、1000人を超える地域の高齢者が接種を終えています。また、この支えあいが生野産業会と協働による「職域接種」にも広がっており、地域での新たな支えあいが生まれています。

 社会を変えるのはそこに暮らす人々の力です。人々のつながりの力こそが政治を動かし、社会をより良いものに近づけるのだということを改めて確認したいと思います。