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コラム「夢を抱いて」

サービス事業評価の仕組み

2022年5月

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 朝夕に町を走る福祉送迎車の姿が当たり前になった今日、福祉サービス事業は確実に広がりを見せています。民間事業者が参加したことで利用しやすくなった一方で、事業者本位のサービスや不正行為が問題になっています。介護保険サービスの事業量では、2000年度当初の3.6兆円が2020年度には10.7兆円へと3倍に膨れ上がり、財源の視点から事業の継続性が問われています。

 事業の効率性を上げること、サービスの質の向上が課題となっています。

行政指導から第三者評価へ

 社会福祉事業は、当初より行政による指導・監査で事業が法令・基準に従って行われているかをチェックしていました。個別事業における指定基準省令等に基づいて、施設・設備・人員配置等の外形的基準について点検・指導するものです。

 しかし、社会福祉法の制定で、福祉事業を行政措置から利用者が選択する契約サービスに変更した結果、事業者自身による福祉サービスの質を高める自己改善のみならず、第三者による客観的な評価と利用者への情報提供が課題となりました。2004年の社会福祉法改正によって、「福祉サービスの第三者評価」が位置づけられ(第78条第1項)、都道府県に推進組織が創設されました。しかし、この第三者評価の受審はあくまで事業者の任意で、受審したとしても、その結果を公表するかどうかも任意にとどまっています。

 2006年の介護保険法改正で創設された地域密着型サービスでは、認知症対応型グループホームに外部評価が義務付けられ、2015年の法改正で小規模多機能居宅介護に外部委員による運営推進会議の設置が義務付けられました。認知症対応型グループホームの外部評価は年1回、都道府県が指定した評価機関によって行われ、福祉医療機構のWAM NETで原則的に公表されることになっています。一方、小規模多機能居宅介護の運営推進会議は、地域との連携を主眼としているため、地域包括支援センターや地域住民団体の代表が参画して、定期的に事業の報告と意見を求める機会となっています。しかし、そこでの事業評価については公表する制度がなく、積極的な運営事業者がホームページ等で紹介する程度にとどまっています。

 第三者による福祉サービスの評価基準は、ガイドラインとしてまとめられており、「Ⅰ.福祉サービスの基本方針と組織」、「Ⅱ.組織の運営管理」、「Ⅲ.適切な福祉サービスの実施」を柱としています。これまでの行政の外形的基準ではなく、サービスの質につながる内容を評価しています。

 「Ⅰ.基本方針」では、「理念・方針の明確化」、「経営状況の把握」、「事業計画の策定」、「福祉サービスの質向上への計画化」などを評価するとしています。「Ⅱ.組織の運営管理」では、「管理者責任」、「福祉人材育成」、「運営の透明性」、「地域との交流・貢献」が課題で、「Ⅲ.適切な福祉サービスの実施」では、「利用者本位」、「質の確保への計画・評価・記録」が評価の柱となっています。

福祉サービス評価制度の課題

 利用者本位の福祉サービスをめざすための評価制度ですが、まだまだ課題が山積しています。

 まず第一に、サービス評価結果の情報公開が必要です。事業者によるサービス評価の受審や市民への公表が「任意」にとどまっており、利用者がサービスを選択する際の判断材料が不十分です。第三者評価については、少なくとも24時間の支援が行われる入所施設については受審と結果公表を義務化すべきです。地域密着型サービスについても、現在の評価方式でいくとしても、まずは結果を公表することが必要です。小規模多機能居宅介護の運営推進会議も、その議事録を事業所のホームページで公表することが必要です。

 第二に、サービスの評価に地域住民や関係者の声を反映させることです。運営推進会議には地域団体の代表(例えば、民生委員や老人会会長など)が参画していますが、彼らが会議で得た情報や会議での発言内容は、地域団体に反映されずに個人のものにとどまっている場合が多いと思います。個人情報には充分配慮しながらも、地区社協や地域包括支援センターのリーダーシップで、事業所のサービスが住民の求めるものや、地域の声をまとめることにつなげていく取り組みを並行して考えることが大切です。

 第三に、本人主体の視点からのサービス評価になっているかということです。「サービスの質を高める」視点が、単なる「お客様」としての利用者ニーズに応えることにとどまっていないかということです。例えば、「ケアプランの充実」は既存のサービスやインフォーマルな支援をどう提供するかにとどまっており、絶たれているその人らしい地域での暮らし(つながり)を本人と一緒に再構築することをニーズと捉えることができているかということです。サービス評価の中心に本人があるかが問題で、そこに地域住民の参画の意味が生まれてきます。

 最後に、サービス評価の取り組みは、質の低い事業者の退場を通じて事業の効率性の向上につながるものであるべきで、行政監査による強制退場ではなく、地域での評判によって自主退場につながるものです。この住民評価は、そのような事業者を認可した行政の在り方や制度にもしっかりと向けられるものせねばなりません。地域福祉計画の検討などの場を活用して、地域包括支援センターや住民代表がサービス評価を通じて得た情報を基にコミットできる仕組みが必要です。

 地域の声を基礎にした住民自治を発展させる意義を持つ取り組みにしたいものです。