pagetop

文字サイズ:小 中 大

コラム「夢を抱いて」

改革の原点は制度が目指す社会

2022年11月

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 2024年の報酬改定を見越して、介護保険法や障害者総合支援法の改正議論が進んでいます。

 国の財政支出の3割を超す規模となっている社会保障は、今後の日本の社会政策において極めて重要な課題となっています。それゆえ、社会保障政策の検討は、これまでの主管局である厚生労働省での議論だけでなく、政府の多様な機関で議論・検討されてまとめられるようになってきています。

 介護保険制度改革を例に見てみますと、以前は社会保障審議会介護保険部会での議論によって法案検討が行われていました。しかし現在では、内閣府の「全世代型社会保障構築会議」をはじめ、同じ内閣府の「経済財政諮問会議」や「規制改革推進会議」、財務省の「財政制度等審議会」などで、介護保険制度の持続可能性をめざした様々な観点からの意見が出されています。厚生労働省の社会保障審議会は、それら多方面の議論を踏まえて改革案を取りまとめ、法案作成に至っています。

各会議からの問題提起

 介護保険法改正に関わる各方面からの議論の焦点は「制度の持続可能性」に当てられています。

 この制度ができてから22年がたち、高齢者への社会的介護支援は着実に定着しています。2020年度には、介護保険サービスの利用者が制度当初の3.4倍の509万人に上り、保険給付総額は10兆5千億円を超えています。その分、保険料は確実に上がり、2号被保険者(40〜64歳)の保険料は2000年当初の2,075円から現在は6,829円と3倍になっています。

 団塊の世代すべてが後期高齢者になる2025年には、サービス供給量が一段と増えるだけでなく、日本の「人口減少社会」をもろに反映した「現役世代の急減」が進み、現在の保険収入を基にした制度維持が困難になると言われています。

 財務省の「財政制度等審議会・財政制度分科会」は、利用者負担増とサービス抑制で収支改善を要求しています。

  • ●サービス利用者負担を2割以上にし、施設の居室代やケアマネジメント代を利用者負担にする負担増
  • ●要介護1・2への訪問介護・通所介護を介護保険から外して、自治体の地域支援事業に移行するサービス削減、等

 内閣府の「経済財政諮問会議」は、成功報酬導入やデータ重視でICT活用策での効率的運営を要求しています。

  • ●介護報酬のアウトカムに基づく支払いの導入
  • ●ケアの内容等のデータを収集・分析するデータベースの構築
  • ●ロボット・IoT・AI・センサーの活用、等

 同じ内閣府の「全世代型社会保障構築会議」は、少し様子が違い、地域共生社会実現へ地域事情を考慮した改革課題を提言しています。

  • ●住民主体の通いの場づくりと、総合事業で地域のつながりを強化
  • ●地域包括支援センターの機能強化や、地域事情に応じた介護サービス基盤整備と医療連携
  • ●高齢者の住まいと生活の一体的支援、等

安心社会をめざす

 各会議から制度の持続可能性を高めるために様々な改革案が出されていますが、そもそも、この制度が何のために作られたのか、どんな社会をめざそうとしているのかをしっかり踏まえた議論でなくてはなりません。経済効率性を負担増とサービス抑制で帳尻合わせをするのは、事業管理者の視点としては当然ですが、高齢になっても安心して地域の一員として暮らし続けることができるために、公助サービスと地域の共助活動をうまく組み合わせて、制度の持続性を追求することが本来の課題です。その際、主体は本人であり、地域住民であることが不可欠で、多様な関係者がその原則を踏まえて地域で協働する中から地域共生社会を実現する可能性が生まれるのです。

 

 定年後の老後生活に必要な貯蓄額は2000万円といわれていますが、国民生活基礎調査(2016年)によると、高齢世帯貯蓄額の中央値は500〜700万円未満、子どものいる世帯で300〜400万円未満、母子家庭で50万円未満と大きな格差があります。老後生活への不安を抱えながらコツコツ生活を切り詰めるしかない停滞した日本社会は、明らかに曲がり角に来ています。

 福祉の問題はすべての人がいずれ直面する自分の問題と捉えることが大切です。その上で、みんなでお金と体を出し合って、いざというときに安心できる社会を作ることが必要です。「子育て・教育・年金・医療・介護の無償化」によって、社会生活の基盤を社会的に保障する。そのための財源を消費税等の増税で確保する。個人の貯蓄ではなく、未来の安心を社会が保障することで、国民は安心して消費し、生活を豊かにしていける、そんな日本社会のあり方を明らかにするのは政治の役割です。目先の不満に迎合して「消費税廃止」などといってる場合ではなく、未来を構想する責任ある政治家の登場を期待したいと思います。