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コラム「夢を抱いて」

日本社会が変わる道

2023年3月

ライフサポート協会 理事長 村田 進

社会不安の拡大と福祉の役割

 2020年から日本を覆ったコロナ禍で、多くの人命が失われ、罹患後遺症や倒産・失業問題、子どもの教育困難、自殺増加等の多くの社会問題が噴出しました。政府の打ち出すコロナ対策は一貫性を欠く対処策に終始し、基本的には国民の自助努力に委ねることになり、社会的に弱い立場の人々へのしわ寄せの結果、社会の格差は一層拡大しています。

 2021年10月に発足した岸田政権は、社会の格差を解消する「新しい資本主義」を掲げましたが、具体的な中身を提示できず、既存の政策に引きずられながら支持率を大きく落としています。今年の年頭に打ち出した「異次元の少子化対策」も、中身と財源を明示できず、国会議論も「児童手当の所得制限撤廃」等の些末な点に集中しており、教育の無償化、若年層の所得や住居の保障という根本的な課題に切り込む姿勢は全く見られません。

 世界主要国の中で経済成長率や労働者の給与水準が最低レベルのまま、1990年のバブル崩壊以降の「失われた30年」がさらに延びようとしています。日本社会の再生のためには、自助を中心とした市場競争重視の政策を転換し、格差の解消、安心社会のための公助・共助を中心とした福祉的社会への転換が求められています。

社会福祉諸制度の未来

 この間、日本社会の未来について様々な議論がされています。団塊の世代すべてが後期高齢者になり医療・介護費の増大と地域の担い手不足が予想される「2025年問題」と、更に15年後に現役人口(20〜64歳)が1000万人減少する「2040年問題」です。近い将来の危機を前に、社会保障制度の持続可能性をめぐる議論が政府審議会等で進められています。

 議論の焦点は、「財源問題」と「事業生産性」に置かれ、財源では利用者負担増と、自治体やボランティアへの制度移行(丸投げ)が検討され、生産性ではロボットやAIを活用した「エビデンスのある介護」が強調されています。つまり、制度の持続可能性を自己負担増とサービス抑制で帳尻合わせをしようというものです。

 そもそも、福祉施策で求められているのは「人権の保障」であり、生産性はその支援の質の向上で評価せねばなりません。地域住民の参加も、事業の下請けではなく、社会的つながりを深めて地域の生活を豊かなものにするためです。貧困や加齢・障害などで社会生活に困難な状態になっても、その人らしく社会とつながりつつ安心して暮らしていける社会こそが必要で、社会福祉法はそのために「地域共生社会の実現」を掲げています。理想を建前のように掲げる一方で、本音は市場主義の自己責任というねじれた現状が日本の停滞を生んでいるといえます。

地方自治体の大きな役割

 20世紀終盤の「地域分権一括法」を契機に、地方自治体の役割は大きく拡大してきました。福祉をはじめとした主要な施策の多くが自治体業務として国から移管される一方、新自由主義による行政の効率化の動きで、公務員削減・民間委託が急激に広がりました。その結果、限られた公務員による事業の管理は形ばかりとなり、実際業務の質は民間に丸投げという事態を生んでいます。結局、非効率な事業実態の放置が税金の無駄遣いにつながり、そのしわ寄せは当事者への人権侵害を生むに至っています。

 そもそも問題は、事業を担うのが「行政」か「民間」かということではなく、かれらに「おまかせ」して、市民自身の声が届かない中で事業が進められていく点に問題があるのです。

 市民サービスの本当のニーズを知っているのは、それを受け取る住民当事者であるはずです。当事者の声を第一に、サービスの在り方が検討され、市民もかかわって事業がすすめられ、評価される仕組みによって本当に効率的・持続的な行政サービスが実現するのです。自治体には、「おまかせ民主主義」ではなく、市民が自分たちのまちづくりに取り組む主体となっていけるように支援する役割が求められています。地域福祉の具体化として実践されつつある地域包括ケアや福祉のまちづくりは、自治体を活力と魅力あふれたものにする可能性を持っており、我々が日々の活動を通じて貢献できるとことです。

 「大阪都構想」は2回の住民投票で葬られましたが、その過程での「総合区」などの市政改革論議は、住民自治拡大につながる大きな意味を持っていました。この4月に行われる統一自治体選挙を通じて、新しい首長や議員には支えあい安心して暮らせる地域づくりにつながる自治体改革ビジョンを求めたいと思います。