コラム「夢を抱いて」
2023年5月
ライフサポート協会 理事長 村田 進
昨年度、介護サービス事業者の倒産が過去最高を記録したという深刻な報道が流れています。
2022年度の介護事業倒産件数は135件に上り、通所介護(65件)と訪問介護(46件)が全体の8割を占めています。通所介護はコロナによる利用控え等による減収が大きく、訪問介護はヘルパーの高齢化(4人に1人が高齢者)による人材不足と、2018年度の報酬改定での生活援助単価の切り下げ等のよる減収が影響していると思われます。
通所介護や訪問介護事業所の多くを占めていた小規模事業者の倒産・廃業は既にピークを迎え、報酬抑制と人材不足による中長期的な事業整理の傾向は続くと思われ、今後は一定規模の事業所の整理倒産の可能性が予想されています。このような事態が続くことで、結果として介護難民などの深刻な社会問題を生みかねず、早急な手当てが求められています。
来年は医療介護の同時報酬改定が予定されており、事業者からは報酬増への期待が高まっていますが、一方で拡大する事業ニーズのための財源確保の見通しが立たない中、議論はIT等の活用や事業者合併による大規模化などでの「サービスの効率化」に焦点が当てられつつあります。しかし、これらの効率化による収益改善策は、民間企業での改善策であり、「本人主体の推進」や「地域共生社会の実現」という社会福祉法のめざす事業目的との大きな乖離を感じます。
報酬問題と同様に大きな課題となっているのが介護人材確保の問題です。
2021年7月に政府が発表した「第8期介護保険事業計画(2021〜2023年度)に基づく介護職員の必要数」によりますと、今年の必要介護職員数は233万人で、22万人が不足し、2040年には89万人の確保が必要だとしています。(下図)
厚生労働省の「一般職業紹介状況」によりますと、今年3月の有効求人倍率(求人÷求職)を見ると、全産業の1.22倍に対し、介護サービス堯は3.44倍と3倍近くに上り、人材確保困難の深刻さが明らかです。
しかも、日本全体の人口減少が問題となっており、総務省は今月22日に、2022年12月1日時点の人口推計を発表しました。外国人を含む総人口は21年12月と比べて55万9000人少ない1億2486万1000人で、12年連続のマイナスとのことです。
さらに国立社会保障・人口問題研究所が2023年4月26日に発表した「日本の将来推計人口」によると、総人口は、令和2(2020)年国勢調査による1億 2,615 万人が 2070 年には 8,700 万人に減少するとのこと。この間いわれてきた人口減少傾向が前回調査より若干緩やかになっているのは、外国人の流入によるものと思われますが、いずれにしても働く人が減少し、少ない人材を全産業で奪い合う事態は変わりません。
では、国はこの深刻な介護人材不足をどう解決しようとしているのでしょうか。
厚生労働省は、「総合的な人材確保対策」として、➀介護職員の処遇改善、➁多様な人材の確保・育成、➂離職防止・定着促進・生産性向上、➃介護職の魅力向上、➄外国人材の受入環境整備という大きく5点の方策を打ち出しています。
具体的には、以下の内容となっています。
残念ながら、これらの小手先の対処策では限界が来ていると思われます。なにより、介護ニーズはあと20年間、高まり続けることは確実ですが、それに対応するにも人材と財源が確保できていない現状をふまえると、この際、根本的な政策転換への道を選択する時にきていると考えねばなりません。
介護・福祉の施策を何のために創ってきたのか、そのめざすべき社会目標を明らかにし、それを実現するための政策への転換が必要です。私たちはどんな社会で生きたいか、そのために人・物・金の資源をどう投入するかという日本社会の進路全体に関わる施策が求められているのです。
社会福祉法は「地域共生社会の実現」を掲げていますが、人生の様々なステージで直面する困難に対し、自分自身の努力は前提としても、それを励まし、支える社会をみんなで築くことが、全ての人の人生を安心できるものにするという考え方が大切です。その支えあいは、人が一人で生きているのではなく、相互に助け合って生きる社会的存在であるという人間性の回復の過程でもあるのです。
この基本目標をふまえて、具体的に3点の改革課題を考えたいと思います。
第1点は、報酬改定による安定的な処遇改善策で人材の量的確保です。
適切な人材を確保・育成するためには、安定した事業報酬を確保することが必要です。そのための財源は増税しかありません。「医療・介護・教育のベーシックサービス」等の国民がその負担を納得できるビジョンを打ち出すことがそれを可能にします。
第2点は、質の確保(効率性)と地域福祉の推進につながる人材確保です。
現在のようなサービス競争型での介護事業が、多くの無駄と当事者の人権侵害を生んでいます。中学校区等の日常生活圏域で事業を独占する地域密着サービス事業を行政指定すること、とりわけ「地域密着型訪問介護センター」を新設し、在宅等の支援体制を確保することが重要です。しかし、その際、現在、一部でしか義務化されていない「運営推進会議」の開催と議事録公表を義務化し、住民等の参画による運営評価の仕組みをつくること、更には地域住民が地域福祉に積極的に関われる「住民参加型支援事業」の創設が重要です。
最後に、事業者自身の課題です。介護事業者が個別事業所ごとの人材確保から脱却して、ともに手を組んで人材確保・育成の共同事業に乗り出すことです。「社会福祉連携推進法人」がテーマに上がっていますが、その前提として、どんな福祉をするのかという法人事業の目標(理念)が共有される必要があります。その上で、どんな人材が必要か、実践で彼らを指導・援助できる指導者が配置されているのかという共通課題を整理し、計画的に実現していく必要があります。地域の福祉事業者の連携と事業の質を高める取り組みが急がれます。
「失われた30年」が続くことは日本社会を更に大きく後退させていくことを意味します。
改革に残された時間はありません。