コラム「夢を抱いて」
2023年7月
ライフサポート協会 理事長 村田 進
宮崎駿監督の映画「君たちはどう生きるか」が注目されています。1937年に吉野源三郎が書いた同名の原作とは全く違う、オリジナルなジブリ作品です。母の死を契機にした喪失感の中で生きる意味を模索する主人公の少年が、異界体験を通じで変わっていくという物語になっています。
「どう生きるか」という問いは、どちらかというと未来が続く若い人々への問いかけのような気がします。この問いを、「どこで人生の最後を迎えたいか」や「人生の終末期をどう過ごしたいか」という問いに置き換えた場合、年老いた自分の最後の時を想像させるものになります。
では、「加齢とともに次第に衰えていく心身を抱えてどう生きたいか」という問いはどうでしょうか? 現在の比較的元気な自分から、次第に衰えていく自分、さらには人の助けなしには生きていけない自分という人生の変化の中で、さて自分はどうありたいかを考えさせるものになります。
生まれてきた限り、いずれ必ず死が訪れます。元気に活躍する時を経て、他者に頼りながら生きる時が来ます。しかし、どの時期にあっても、様々な他者とのかかわりの中で生きている「かけがえのない自分」にかわりはありません。自分を産み、育て、支えてくれた人々。困難を一緒に乗り越えてくれた人々。未熟な歩みを見守りながら支えていった人々。人生の教訓と素晴らしさを伝えてくれ、見送らせていただいた人々。そのような多くの人々とのつながりの中で生きている自分を改めて振り返り、これからもこの人とのつながりを大切に生きていきたいと思えることは素晴らしいと思います。
来年春の報酬改定を前に、福祉制度改革の議論が活発に行われています。
人権を保障する大切な制度という一方で、財源や担い手人材の不足を前にして、制度の持続可能性が問題になり、事業の効率性に向けた改革に焦点が当たっています。
高齢者介護を効率的に行うとすれば、施設に収容し日常生活を支援する方策が一番です。いちいち高齢者の希望する時間に自宅を訪問し、その家にある道具等を使って、本人の希望するように生活支援する在宅介護は一番手間がかかる事業です。「ひとりで家に置いておくと心配」ということから施設を希望する家族の思いと、「住み慣れた自分の家で気兼ねなく暮らし続けたい」という本人の思いのズレに対し、「どちらかを選べ」という制度になっていないのでしょうか。
施設に入っても、自分らしいリズムで気兼ねなく過ごせるサービスがあり、住み慣れた地域との関係をつなぐような支援があれば魅力的です。
一方、在宅でも、ヘルパーや事業者の介護支援だけでなく、近所の商店街や公園への外出、また地域のふれあい喫茶への参加など、近隣住民の助けをもらいながら地域での生活を続けることができれば素敵です。
福祉制度の効率性は「サービスの質の向上」にあると言われていますが、その質はサービスを受ける本人が評価する「サービス満足度」です。それは時間や回数ではなく、「生きてて良かった」と思える生活への支援でなければなりません。
本人主体を支える福祉サービスを可能にすることが第1の目的で、そのために制度をどう変えていくか、持続可能なものにするための財源と人材をどうするかを、誰かに頼むのではなく、自分事として国民みんなで考えていかねばなりません。
福祉のあり方を考えることは、いずれ必ずやってくる未来の自分のこととして考えることが大切だと思います。