コラム「夢を抱いて」
2023年11月
ライフサポート協会 理事長 村田 進
岸田首相の支持率低下が止まりません。
経済の低迷と拡大する国民生活の格差を解決すべく「新しい資本主義」を掲げて登場したのが2年前の10月のこと。新自由主義の自助努力中心の社会から、社会連帯を重視した所得再分配で新しい日本社会をめざすかのような当初の発言はすっかり消え失せ、今年10月の所信表明演説でも総花的に政策目標を羅列するだけとなっています。
介護保険など、今日の社会福祉制度が出来て23年。福祉は権利であり、人権保障であるという崇高な理念の一方、それを実行するために民間事業者の参入による市場化を図ったことの矛盾が様々な制度の行き詰まりを生んでいます。
福祉ニーズの増大と財源難による「制度の持続可能性」の問題。事業者による不正請求や虐待などの人権侵害事件が後を絶たない「サービスの質の確保」の問題。数度に渡る加算による給与改善にもかかわらず一般職に比べ低いままの「介護職員処遇と恒常的人材不足」の問題。等々
訪問介護事業では、生活援助サービス量を抑制すべく報酬単価を切り下げ、身体介護による重度高齢者のサービス重視を図りました。しかし、特養やグループホーム、さらには有料老人ホームなどの普及で在宅の重度高齢者が激減し、同時に、不安定収入を嫌ってヘルパー従事者の確保が困難となり、事業者の倒産・撤退が相次ぐようになっています。
介護職員の処遇改善に向け、数次にわたる加算手当を打ち出しましたが、これまで給与面で介護職より高かったケアマネジャー等の相談職は加算対象外のため、介護職から相談職へのキャリアアップの魅力が薄れ、ケアマネ不足による居宅介護支援事業所の閉鎖も増えてきています。
施設や病院に頼らず、自宅で自分らしい暮らしを継続するために整備された「在宅サービス」の中核を担うべきヘルパーとケアマネの事業体制が崩壊しつつあるのが現状です。
付け焼刃のように問題を個別に対応しようとして、制度はますます複雑化し、新たな矛盾が発生する中、本来の目指すべき福祉の目標が見失われかねない状態です。制度の理念を踏まえて、全体を構想する改革案を早急に打ち立てることが求められています。
福祉の市場化を問題としても、既に民間事業所は福祉サービスの重要な担い手となっています。福祉サービスの改革を図るには、現に事業に取り組んでいるすべての事業者がより良いサービスに取り組めるような改革案が必要です。
とりわけ、事業者のサービス品質を高めるための方策を、地域での取り組みによって探ってみたいと思います。
サービスの品質を高めるためには、まず、サービスの情報を地域に明らかにする「情報公表」が必要です。例えば、地域密着型サービスの小規模多機能居宅介護やグループホームで地域住民や専門機関が入って開かれている「運営推進会議」での報告とホームページでの議論の公表を義務化するという方法が一つです。
あるいは、地域包括支援センター圏域での事業者学習会や実践報告会などへの参加と事業報告を義務付けるという方法もあるでしょう。これらの「情報公表」は必然的に地域住民や専門職等によるの「外部評価」につながります。
さらに大切なのは地域住民との協働の場を作ると言う点です。
一つには地域の防災訓練や清掃活動等の取り組みに参画して、単なる事業者ではなく地域の一員としての役割を果たしていくことです。今一つは、事業所業務を切り出して、地域の高齢者や障がい者などの住民が「仕事」として働ける場を作る取り組みです。調理や配膳、清掃など、専門職以外でもできる仕事を切り出して、地域住民の活躍の場を作り、地域住民の声を聴く機会を設けることです。
事業所が地域に開かれ、つながろうとすることによって、「単なる福祉サービス事業所」ではなく、自分たちの地域に欠かせない「大切な社会資源」であり、仲間であると思ってもらえる時が来るのではないでしょうか。
「地域共生社会の実現」という社会福祉の目標に向けて、福祉事業者の努力が問われています。