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コラム「夢を抱いて」

心に共鳴を起こす実践

2024年1月

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 先日、高齢者施設の管理者の方々に「人権問題」のお話をする機会がありました。
 研修参加の施設管理者にとって、今一番の悩みは介護スタッフの確保問題だと思います。政府の第8期介護保険計画に基づく2040年の介護職員の必要数が280万人であるにも関わらず、2021年の介護職員数は215万人で、ここ数年、ほとんど増えていません。介護労働を避ける原因の一番は低賃金で、民間平均所得より年収で75万円(月に6万円)も低い状態です。政府は今春の介護報酬改定で基本報酬を1.59%上げて、介護職員の給与を月額6000円引き上げたいとしていますが、これで格差は埋まりません。それどころか、政府主導の政労使懇談会では物価上昇分を上回る4〜5%の賃上げの必要性が合意されています。これでは逆に格差が広がってしまい、ますます介護職員の確保が困難になることが予想されます。

 コロナ禍で奮闘していた介護スタッフをマスコミは「エッセンシャルワーカー」と称えてくれましたが、これに対する報酬評価があまりにも低い現実はどうしたことでしょうか。私は、この背景に「家事・育児・介護は女性の無償労働」という根深い社会意識があると思います。「だれにでもできるお世話の仕事」「特に専門性を問われない仕事」としての認識が社会に存在しているわけですが、残念ながら体制に余裕のない介護現場でもその見方を受け入れてしまっている現実があるように思います。

 介護労働は単なる「お世話」ではなく、困難抱えて孤立し、自尊心を失いつつある人に寄り添って、その人らしい暮らしを支えるかけがえのない人間的行為です。その労働は、本人をありのまま受け入れ、その人自身が現実を受け止め、新しい自分の人生に踏み出していくのを支え続ける仕事であり、当事者の尊厳を守る「本人主体の援助」という極めて高度な専門性が問われます。

 社会の中の偏見を無くし、介護労働の正当な評価を勝ち取るためには大きく3つの取り組みが必要です。まず何より、介護現場における素晴らしい実践に取り組むこと、第二には、その実践を家族や地域住民を巻き込んだ形で連携して取り組むこと、最後に、その実践経験を社会にアピールしていくことです。本人を真ん中において支援の在り方を職場で議論し連携して取り組む中で、職場の一体感と支援の質が高まります。本人主体の実践が、家族や地域の関係者の感動と連帯を生み、事業所への信頼感が深まります。
 「国や行政が何も考えてないから」とか、「制度が不十分だから」とか、誰かのせいにすることで諦めるのではなく、自分たちの職場を良くするのは自分たち自身であることをまず考える必要があります。
 偏見を持つ人は「敵」ではなく、「理解していない人」に過ぎません。その人に理解できるような実践を見せていくことが必要ですし、同じ人間として心に共鳴する投げかけが大事です。そして、それが出来るのは介護現場を担っている私たち自身だということを改めて自覚せねばなりません。

 社会に訴える誇りある実践に今こそ取り組む時です。