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コラム「夢を抱いて」

身寄りのない人を支える

2024年5月

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 今年、傘寿(80歳)を迎えるAさんは、アパートで独り暮らし。おつれあいは3年前に亡くなり子どももいないAさんは、要支援1の認定は受けているものの週1回の掃除等でヘルパーが訪問する以外、買い物・調理など日常生活はほぼ自分でこなしている。
  ある日、ヘルパーが訪問するとAさんが熱を出して横になっていた。すぐに連絡をもらったケアマネジャーが付き添ってかかりつけ医に受診すると、風邪をこじらせて肺炎の疑いありとのこと。そこで入院のための紹介状を書いてもらい、Aさんを連れて公立病院へタクシーで向かった。診察後に入院手続きに入るが、病院から身元保証人を求められる。医療処置の同意から入院費用の保証などを求められたが、家族のいないAさんに身元保証人はいない。事情を説明して病院の了解をもらったのち、ケアマネジャーはすぐにAさん宅に戻り、入院時に必要な物品を整えて再び病院に向かった。
  これらケアマネジャーによる一連の支援行為は彼の本来業務ではなく、すべてボランティアでした。身寄りのない高齢者を支える制度の不備が大きな問題になってきています。

 2022年の内閣府「高齢社会白書」によりますと、独居高齢者世帯は750万世帯で、高齢世帯の40%に上るとされています。介護保険施行時の2000年は303万世帯でしたので、この25年で2倍半に急増しています。少子高齢化が進む中、2040年には890万世帯(高齢世帯の45.3%)になると予想され、家族がいない又は疎遠な状態の、いわゆる「身寄りのない高齢者」に対する入院・入所や日常生活への支援が大きな課題となっています。

 認知症や知的・精神障がいがあり本人の判断能力に困難を抱えた人に対しては「成年後見制度」による専門職等の支援制度がありますが、家庭裁判所による認定が下りるまでに時間がかかり、いざという時に間に合わないことが多々あります。ましてや、認知症等がなく判断能力があるとされる人にはこの制度は使えません。

 日常生活で支援が必要とされるのは、金銭管理や買い物支援等の生活支援だけでなく「入院・入所時の連帯保証」、「医療同意や手続き代理」、「緊急時対応」、「死亡退去時の引きとり」、「死亡事務手続き」などの本人の重要な権利に関わる支援です。先ほどの例のように、制度がない中、多くはサービス事業者や相談員のボランティアに依存する状態でしたが、10年ほど前から身元保証等を請け負う民間事業者が増えてきました。
  その一方で、身元保証事業者の経営破綻でのトラブルや裁判沙汰も起こっており、この5年で身元保証サービスに関するトラブルや相談件数が3倍以上に増えています。そこで、総務省が実態調査に乗り出す中、自治体や事業者も「ガイドラインの策定や登録制度」、「監督官庁や事業者団体の設置」等の要望を出すようになっています。

 厚生労働省は「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライ」(2019年5月)を作成し、「身寄りがない場合にも医療機関や医療関係者が患者に必要な医療を提供することができる」ことを求めています。
  ガイドラインは、「身元保証・身元引受等」を①緊急連絡先、②入院計画書、③必要な物品の準備、④入院費等、⑤退院支援、⑥死亡時の引き取り・葬儀の6つの機能・役割とし、それぞれへの対応策を示しています。ただし、「医療行為への同意」については本人の一身専属性が極めて強いものであり、第三者の同意権限はないとしています。

 成年後見制度の見直し論議も進められており、2022年3月には「成年後見制度利用促進計画」が閣議決定されています。そこでは「尊厳ある本人らしい生活の継続と地域社会への参加を図る権利擁護支援の推進」がうたわれ、「総合的な権利擁護支援策の充実」に向け日常生活自立支援事業の体制強化に加え、地域連携ネットワークづくりへ中核機関のコーディネート機能の強化が強調されています。

 これらの国の制度改革論議でも強調されているのは、「本人意思の尊重」であり、本人意思を支援する取り組みです。ともすればあいまいになりがちな本人の意思を探るために多様な支援者による協働作業が「意思決定支援」です。
  相談支援機関、サービス事業者、医療機関、行政、地域福祉関係者、近隣住民など、その人に関わる多様な関係者が「その人らしい思い」を普段の関わりの中から探っていく過程が重要です。とりわけ地域住民にとって、このような支援のプロセスを通じて、将来の自分にも訪れるであろう危機に対してみんなが支えてくれる「共生社会」への希望を抱けるようになるのではないかと思います。

 どのような人であれ、困難な状態に陥っても他者の指示や管理によって生きるのではなく、その人らしく暮らし続けられる社会をめざしたい。そのためには、地域で暮らす一人ひとりが、わが事として地域の他者に関わり続ける努力が必要です。
「権利は国民の不断の努力によって実現する」という憲法第12条は、地域福祉の推進にとっての魂でもあるといえます。