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コラム「夢を抱いて」

高めあう競争

2025年1月

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 総務省統計局が発表している日本の人口推移のグラフがあります。
 1992年の国民生活白書で「少子高齢化」が叫ばれて以来、日本の人口減少は着実に進み、2005年を境に増減実数はマイナスを記録するようになりました。厚生労働省の推計によりますと、2070年には総人口が8700万人になり、14歳以下の年少人口は9%、15〜64歳の労働人口は52%、65歳以上の高齢人口は39%に上るとされています。

 減少する労働人材の確保をめぐって、企業各社は大幅賃上げや処遇改善の競争がはじまっています。税金や保険料を財源に3年に1度の報酬改定を待つしかない私たち福祉業界は残念ながら取り残されているのが現実です。(報酬改定のあった2024年度でも平均賃上げ率5.3%に対し、介護労働者は2.5%にとどまった)

 職業を選択する基準の上位は、「収入」や「ワークライフ・バランス」とされており、大企業中心の安定志向が強いのは事実です。しかし、それに続く基準は「やりがい」や「自己成長」があり、仕事を通じて社会への貢献と自身の成長を求める傾向が強まっているともいわれています。
 エッセンシャルワーカーと言われる福祉の仕事は、まさにやりがい溢れるもので、職員の成長とともに発展する事業であることを改めて社会にアピールしていくことが福祉事業者に求められていると思います。

 かつて当法人の人事労務制度について社労士の方と議論した際、「企業秘密」について市場とは大きく違う福祉業界について驚かれたことがあります。
市場では自社の独特の工夫で他社を出し抜いて経営の優位を図ることが当たり前で、それを「企業秘密」として重要視します。しかし、福祉の世界では、多くのすぐれた実践事例を積極的に公表し、他社がそれを参考にしてより良い実践につなげていくことが大切にされています。これは個別事例の実践だけでなく、「地域包括ケア」など、地域で多職種の連携を積極的に進めながら地域住民とともに取り組む実践例も広がっています。
「企業秘密」を積極的に公表する理由は、福祉の目的が困難を抱えた本人の幸せを実現することにあるからです。本人がその人らしい暮らしを続けられること、地域の一員として他の住民とつながりながら暮らし続けられることが目標です。地域の住民も自分事として福祉の取り組みに参加することを通じて、どんな状況になっても人として尊重されるような雰囲気を自分たちの地域を作ることにつながります。

 停滞する日本社会を打破する道がさまざまに模索されていますが、「他社との競争に打ち勝って発展していく」というこれまで繰り返されてきた手法ではなく、みんなが手を携えてより良い社会に向けた努力を競うことを重視する道がますます重要になってきているように思います。ラグビーの合言葉に「ワン・フォー・オール オール・フォー・ワン」(一人は万人のために 万人は一人のために)がありますが、誰もが支えあい、仲間として競い合える豊かな社会を目指したいし、今まさにそのチャンスがやってきているように思います。