pagetop

文字サイズ:小 中 大

コラム「夢を抱いて」

地域づくりを支援する

2025年3月

ライフサポート協会 理事長 村田 進

 2020年の社会福祉法改正は、「地域共生社会の実現を図るため」の新たな取り組みを打ち出しました。とりわけ、地域住民の複合化したニーズに対応する包括的な支援や福祉サービス提供のために「重層的支援体制整備事業」が新たに創設され、市町村での取り組みの推進を求めました。この事業は①「相談支援」〜包括的な相談支援の体制、②「参加支援」〜社会活動への当事者の参加支援、③「地域づくりに向けた支援」〜住民同士の顔の見える関係性の育成支援で、これら3つの支援を一体的に取り組むことで、支援効果が高まるとしています。

 2000年の社会福祉法の制定を前に、「社会福祉基礎構造改革」の議論があり、従来の福祉六法の対象とされた高齢者・障がい者・生活保護など貧しい人々以外に、多くの社会課題を抱えた「社会的援護を要する人々」の存在が明らかになりました、社会福祉法は福祉をすべての国民にとっての人権(権利)と位置づけ、社会保険も活用しつつ様々な課題への取り組みを進めるとしました。その後、介護保険制度や障がい者支援制度を始め、子ども子育て支援、生活困窮者自立支援など様々な支援制度が整備され、相談支援やサービス支援の事業関係者もその都度生まれていきました。
 しかし、制度ごとの取り組みが広がる一方で、問題が複合的に絡まっていたり、地域から孤立して深刻な事態に至っている実態に制度ごとの支援が効果を上げていないことが明らかになってきました。もともと社会福祉法では「地域福祉の推進」が掲げられていましたが、地域包括ケアの推進などの具体的課題が開発されていく中で、今回の「重層的支援体制」という市町村が責任をもって地域福祉を進める包括的体制整備が求められたのです。

 大阪市は昨年9月の「重層的支援体制整備事業あり方検討部会」で、「本市の行う一部の事業において、国の示す枠組みに当てはまらない」として、2025年度からの事業実施は見送る方針を決定しています。大阪市が独自に取り組んできたとする「包括的支援体制」のイメージ図には、「包括的相談支援」として「高齢対象の地域包括支援センター」「障がい対象の障がい者基幹相談支援センター」「子ども対象の子育て支援室」「生活困窮対象の生活困窮者自立相談支援機関」などがあり、地域ケア会議などそれぞれの制度にのっとって相談支援の連携・協働を図っているとしています。また、区政会議や地域福祉部会等の「地域課題について話し合う場」を設けるとともに、「総合的な支援調整の場(つながる場)」を区役所に設けて「多機関協働」を進めていくとしています。「地域づくり支援」においても、各区社協と連携して「地域における見守りネットワーク強化事業」等多くの事業を通じて取り組み、区役所がコーディネート役を果たすとしています。

 確かに大阪市は必要に応じて各課題に対する支援事業を整備してきており、かつてのような縦割り運用による弊害をなくす取り組みも進んできているように思います。しかし、コーディネートとされる区役所職員がその役割を充分果たせているのか、求められるソーシャルワークの力量を系統的に高めていく計画がしっかり立てられているのか、疑問に思えてなりません。
 例えば、「地域づくり支援」の取り組みを見ても。その戦略的視点の弱さの課題があるように思います。大阪市の包括的支援体制イメージ図の「地域づくり支援」では、「見守り相談室CSW」と「生活支援コーディネーター」「コミュニティワーカー」という人材が地域との橋渡し役(コーディネーター)となっており、「地域における見守りネットワーク強化事業」をはじめ7つの事業を通じて地域を支援するとされており、これを調整するのが区役所の地域課職員となっています。残念ながら、区の担当職員はソーシャルワークの専門職ではなく、しかも限られた職員体制で区の地域づくりの調整は困難です。実際にこれら事業を受託し進めている区社協も、毎年の事業評価に向けて相談件数や事業実績を上げることに精一杯で、「事業をこなしている」だけのような気がします。

 「地域づくりの支援」が地域の福祉課題に取り組む住民の輪が広がることを目指しているとすれば、地域住民の組織づくりが目標となり、その活動の質を継続的に高めていくことが課題となります。大阪市は「ニア・イズ・ベター」の観点で地域活動協議会(地活協)を小学校区などの身近な地域に組織し、地域課題に取り組んでいけるよう補助金も出しています。「地域見守り支援」などの活動をこの地活協に位置付け、着実に主体的な活動に発展させ、研修・交流会を通じて質的に高めていけるよう援助する目標を明確にすべきです。高齢者支援だけでなく子どもや障がい者の課題も積極的に地域に提起し、同じ住民として考えあう場を広げていくことも必要です。
 この活動はコミュニティソーシャルワークであり、岩間伸之が提起した「個と地域の一体的支援」(「地域福祉援助をつかむ」2012 岩間伸之・原田正樹)にほかなりません。区の調整役は別としても、区社協や包括支援センターなどのソーシャルワーカーの専門的支援の役割は極めて大きいといえます。

 地域住民が持つ素晴らしい潜在力を信じて、支援していく側が連携したうえで、しっかり戦略的な目標を持って地域に働きかけていくことが求められています。
 地域活動への支援は、着実かつ柔軟に、でも、したたかに重ねていくことが肝要です。