コラム「夢を抱いて」
2025年6月
ライフサポート協会 理事長 村田 進
ロシアによる3年に及ぶウクライナ侵攻。イスラエルによる非人道的ガザ制圧とイラン空爆テロ。これに続くアメリカによるイラン核施設の空爆は、停戦合意ができたらしいものの、世界中を巻き込む大混乱を生みかねませんでした。さらには、米トランプ政権によるアメリカファースト関税戦争と移民排除弾圧など、20世紀の世界戦争を通じて克服してきたはずの一方的な侵略や排除の行為がまかり通ろうとしています。
ただし、一見して強いリーダーに見える彼らの行為ですが、実際はそれぞれの国内政治の行き詰まりや批判的勢力を説得できない弱さから目を外にそらす「あせり」の政策であるともいえます。同時にこのことは、彼らを批判する勢力の課題でもあります。暴力を主導するリーダーを支持する人々を「反動的」や「非人道的」と批判するだけでは分断を克服することはできません。国を二分する支持者が何を望んでいるのか、その思いに心を寄せてともに考え合う共通基盤を作り上げていく地道な取り組みが求められています。
約30万年前にアフリカで誕生した人類は、その後、世界各地に移動していきました。10数万年に及ぶ拡散を経て、今日の地球を占拠するに至った人類の大きな特徴は、「自分たちとは明らかに違う集団を受け入れる力」でした。縄張りを絶対死守する動物たちと違い、人間は共存することで勢力圏を拡大してきたのです。
そもそも、人々の持つ宗教や習慣や文化は、それぞれの地域の環境の下で長い歴史をかけて培ってきたもので、他者が一概に否定できないものです。さまざまな集団がそれぞれの大切なものを持ちながら地球上に共に暮らしていけるために、人類は他者の大切なものを尊重し、自分たちの大切なものとの共存を図るためのルールや手法を作り上げてきたのです。お互いの大切なものを不当に侵されない、自分の意見や権利を平等に主張できる、それを保障する社会的な制度や仕組みを作り、尊重することが「正義」として守られてきたのです。
社会の中で困難を抱えた人を支えるために福祉制度が作られました。しかし、制度が定着する中で、二つの副作用が出てきます。一つは、制度の対象者を選定することによって、その対象から外れた人々からの反発(「逆差別だ!」)です。更にいま一つは、それまで培われていた家族や近隣による援助関係や自分で出来ることはするという自発性が、制度に依存することで失われていくことです。
2000年の社会福祉法制定で、「地域福祉」が提唱され、地域住民の支え合いが重視されるようになってきました。これには「公的責任の放棄につながる」などの批判が起こっていますが、大事なことは、制度はあくまで道具の一つで、困難を抱えている人の自分らしい暮らしを実現することが目標です。
人が地域で自分らしく暮らすには、制度で保障される介護・医療等だけでなく、家族や近隣との相互援助の人間関係が不可欠です。本人の思いを大切に、制度が有効に働いているのかを評価する仕組みが必要で、そこに本人・家族・地域住民が参画する地域福祉が求められます。
病気や障害を抱えた人々の問題は、誰しもが経験する可能性のものとして、将来の自分に関わる問題(自分事)として関わることが大切です。思想や宗教が自分とは違う人々であっても、地域では同じ住民として一緒に地域課題に取り組んでいますが、それは人種や国籍が違っても地域に共に暮らしている限り同じ姿勢が必要です。
身近な地域で自分と異なる存在を受け止め、共存していく地道な活動こそが分断の世界を拡げない大きな力を生み出します。
今年6月25日の定例評議員会をもちまして、私は法人理事長を退任し、第4代石田理事長に後を託しました。2年前から求められて地域活動協議会の役員として地域見守り支援等の活動に取り組んできていますが、これまでの専門職の立場からの「地域福祉」の取り組みを、今後は地域住民の立場で更に推進していきたいと思います。
コラム「夢を抱いて」も今回で最後となります。またどこかで夢を語り合える日があることを祈念してペンを置くことにします。
長らくのお付き合いありがとうございました。