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2020年度事業計画

更新日:2020年5月12日

1. 法人を取り巻く情勢

1)社会福祉法の20年

 今年は社会福祉法が改正されて20年目の年にあたる。敗戦後制定された社会福祉事業法を半世紀ぶりに抜本的に改正して生まれた社会福祉法には二つの大きな意義があった。ひとつには、それまでの行政による「措置」として行われた福祉事業を「当事者の権利」と位置付けたことで、いまひとつには、地域住民はもとより、福祉事業者、行政等、多様な関係者が参画して地域の福祉課題の解決に当たる「地域福祉の推進」を打ち出したことである。

 この20年で「福祉は権利」を実現するために様々な取組が重ねられてきている。本人の意思決定を支援するための成年後見制度や、高齢者・障がい者・児童等への権利侵害を防止するための虐待防止法などが制定された。障害者自立支援法から障害者総合支援法へ難病患者含め対象者の拡大がすすみ、義務的経費として国の予算枠が広がった。ホームレス支援法から生活困窮者自立支援法へ社会的に孤立した若者や困窮者への支援、幼稚園・保育所・認定こども園の整備や無償化などの子ども・子育て支援制度等、高齢者中心から「全世代型社会保障」への転換が進められている。

 また、「地域福祉の推進」では、自治体に義務付けられた地域福祉計画は全国の市の91%、町村の62%が策定済みで、多くの地域住民が策定に参画している。身近な地域を基盤とした「地域包括ケア」等、関係事業者の連携が進み、地域包括支援センター等の制度もつくられた。地域支援コーディネーターの制度や地域の支えあい活動を支援するコミュニティソーシャルワーカーの導入に取り組む自治体も増えてきている。2018年の社会福祉法改正では「我が事丸ごと」の地域住民が参画して地域での支えあい活動を強化して「地域共生社会をめざす」という方針が出ている。

 そもそも社会福祉法の改正がされた背景には、少子高齢化に伴う日本社会の人口減少という社会構造の変化があった。また、経済のグローバル化のもとでの国際競争激化で、日本型雇用システムが行き詰まり、失業者や非正規労働者の増加等で社会的格差が拡大していった。生活困難を抱えた人を従来の社会福祉の仕組みや体制では対応できず、家庭、地域や企業というこれまでの社会福祉を補ってきた機能も力を失い、人々は地域社会で孤立していく。その結果、全てを自己責任のもとで抱え込まされ孤独死や自殺、ごみ屋敷など自らの内に籠もる事例や、より弱い人々への虐待や殺人などの社会的事件を引き起こす事例が頻発するようになった。

 不安定化する日本社会にあっては人々の誰もが生活困難に陥る可能性があり、それを解決するためには行政や福祉事業者だけに頼っていられない社会の現実をどう変革するかが社会福祉の課題となっている。

2)社会福祉法人に求められていること

 直面している社会福祉の課題に対して、この間、ライフサポート協会は果敢に取り組んできているが、改めて私たち社会福祉法人に求められていることを確認したい。第1に、多様な社会的課題に対応するための制度の狭間を越えた支援の連携、第2に、住民自身が地域の困りごとを拾い集めて、自分に関わることとして地域で話し合い、行政や事業者などと一緒になって解決策を探していく地域福祉活動の推進に取り組むことである。施設や専門職を抱える社会福祉法人は、そのような活動の輪を広げるために「集まれる場づくり」や「課題を考えていく上でのアドバイス」、「制度・仕組みにつなげる支援」などで大きな役割を果たさなければならない。

 地域住民や事業者、NPO等多様な人々が、自分たちの地域を暮らしやすくするために取り組む活動、まさに住民による「まちづくり」が必要です。互いを支えるこれらの活動を通じて、人々がつながりあう安心して暮らせる社会の基盤をつくることができる。社会福祉法人の使命はますます大きくなっているといえる。

3)社会福祉法人の連携推進

 一連の社会福祉法人改革論議を受けて、政府は昨年6月に「成長戦略フォローアップ」を閣議決定し、「社会福祉法人の事業の協働化・大規模化の促進方策等の検討」方針を打ち出した。その後、厚労省は「社会福祉法人の事業展開等に関する検討会」を開催し12月に報告書をまとめた。そこでは、①社会福祉協議会による連携、②社会福祉法人を中核とする非営利連携法人制度の創設、③合併・事業譲渡が円滑になる環境整備の3つの方策が示された。

 とりわけ、新たに創設される連携法人は「社会福祉推進連携法人(仮称)」とされ、「地域共生社会実現への地域連携」、「災害対応」「福祉人材確保・育成」「共同購入」等の社会福祉事業を進めるうえで、社会福祉法人が中心となって地域で連携し、事業の効率化を図ろうというものだ。新年度には法制化され、遅くとも2021年度からは法人認可されていくことが予想される。

 大阪府下の被差別部落発の社会福祉法人(17法人)が参画した「福祉と人権ネットワーク つばめ会」は、この間、研究集会や部会活動での実践交流等を通じて、互いの活動の向上を目指してきた。そして、昨年の総会では「福祉人材育成」と「共同購入」で具体的な共同事業に取り組むことが決定している。とりわけ、「福祉人材育成」では今年の夏から「介護職員初任者研修事業」を開講し、単に傘下法人の職員研修だけでなく、地域福祉活動に取り組む地域人材の育成、就職困難者支援機関と連携した就労訓練事業として、広く地域福祉推進の人材育成事業として取り組もうとしている。今後、つばめ会は「社会福祉推進連携法人」を視野に入れて、「介護実務者研修」や「移動支援従事者養成研修」、「行動援護従事者養成研修」等、福祉活動に参画する幅広い人材を育成するための社会貢献事業に取り組むことを構想している。

 つばめ会による研修事業は、これまでライフサポート協会が取り組んできた人材育成・研修実践による「地域福祉人材育成」と同じ目標をめざすもので、府下の社会福祉法人をはじめ地域福祉活動や就労困難者支援に関わる団体との連携を深めるためにも取り組む意義は大きいといえる。

2. 事業部計画

1)2019年度を振り返って

 2019年度は新規事業や大きな事業改革はなかったものの、気候変動が顕著にみられコロナウィルスの流行など、昨年同様に不安定な1年であった。そのような中で、法人の事業収益は若干ではあるが予算を上回る結果に終われそうであることは一安心といえる。

 2020年に向けて、稼働率の見直しや各事業所においても課題整理に時間を費やすことができた1年であったと考える。また今年度から開始した障がい者就労の新規事業である、企業とのコラボ作品の製造、給食及び介護チームによる高齢部門との連携なども順調に成果を見せつつあり、2〜3年後の充実が期待される。また、泉北事業の拠点建設も順当に進み、泉北での将来的な事業の基幹が見えてきた。

 そういった意味では、第7期の充実に向けしっかりと準備のできた1年であったともいえる。

 2018年度の報酬改定では、福祉事業において全体的に報酬単価が引き下げられた。その大きな理由としては自己責任論に傾倒し過ぎたため、生活保障に対しての国、地方自治体の意識の低さ、国民の基本的人権に対しての認識の低さにあると考える。福祉の充実は国民にとってのセーフティネットの確立であり、国民全体の安心・安全な生活にもつながる。福祉の充実こそが人権社会を実現する第一歩となる。

 しかしながら、福祉事業に関わる現場の声はその充実に反映されていない。福祉労働の視点では、その生活基盤となる基本報酬は抑えられ、いくつもの加算を付けるといったごまかしで削減される。福祉事業の基本報酬は事実上引き下げられているのが現状である。その加算も理由にならない理由により数年おきに消滅したり、新しい加算を作ったりとその場しのぎの政策となっている。その政策には国民の福祉の充実は眼中になく、目先の支出削減に捉われ現場の事務量も増える一方である。

 これらは、2000年の社会福祉基礎構造改革以降、福祉事業の規制緩和により、福祉サービスが広がり福祉事業所が増加し民営化が進められた。その一方で、福祉行政に現場の声が届きにくくなったことが原因であると考える。それに伴い福祉行政が数字でしか質を判断できなくなっている。声を聴かない行政職員が中堅から管理職になっていく行く末は、利用者ニーズ、権利保障を優先する福祉事業所にとっては暗黒の時代の到来であるといっても過言ではない。

 故に、我々社会福祉法人は行政の無責任な立場による運営への介入に対して厳しい目を向けつつも、現状の法制度の中で利用者ニーズを基に支援の在り方、権利保障について、行政を含めた地域連携を一緒に考える中で「個と地域の一体的支援」をテーマに、生き残りを模索していかなければならない。

2)全体について

 各事業においては、2016年に低下した稼働率を2017年から2018年にかけて元に戻してきた。2018年度は利用者数の定員と稼働率の整理による現状把握を行った。2019年度にそれを基に定員に余裕のある事業部へ新たな利用者獲得を働きかけ、稼働率の向上及び、その安定のための事業計画と人材配置の適正化に努めてきた。その結果、若干ではあるが予算を上回る事業収入を得ることができた。

 稼働率の管理による収入の確保と併せて人件費の管理への意識も強化していきたい。職員数が質を担保するのではなく、適材適所への人材配置、役割の明確化を持って支援の質を上げていきたい。人件費率を下げながらも一人当たりの収入を上げることにより、スタッフのモチベーションの維持にも努めていきたい。

3)泉北拠点の安定化

 泉北に関しては2020年に開設する拠点事業のスタートに向け、広報活動に力を入れてきた。その甲斐もあってか予定を2〜3割上回る利用者数でスタートできそうである。また新拠点での事業内容をスタッフと共に考え、より良い利用者支援に繋がるプログラム作りが進められている。

 締め付けが厳しくなっている障がい通所部門では、昔ながらのじらふの良さは壊さず、時代にあった放課後等デイサービスの形を模索したい。つばめからじらふへ、じらふからつみきへと繋がりを意識し、保護者、利用児が活用したいと思える場所を再構築していきたい。また、じらふ泉北においては、中高生から次の段階も視野に入れ、スタッフのスキルを最大限生かしながら、利用者に選ばれる事業内容を模索したい。

4)将来ビジョンの検討会の立ち上げ

 住居の課題については、障がい分野のグループホームは潜在ニーズが高いため、今後も新しいグループホームの開設に向けて検討をしていきたい。また高齢者、障がい者を問わず利用できるサービス付き住宅の確保についても検討を始めていきたいと考える。ヘルパーに関しても将来的にグループホームの支援、サービス付き住宅への支援も視野に入れた強化が必要であると考え、生活支援ニーズに対する適切な対応を進めていきたい。また若いスタッフの生活支援力、生活力を強化するためにも積極的に人事異動を行い、スタッフのスキルアップの場としても活用していきたいと考える。

 小規模多機能型居宅介護及び特別養護老人ホームでは2019年度の安定感を維持しつつも、2020年度も引き続き稼働率低下への対応ができる準備を常に考えていかなければならない。

 また特別養護老人ホームや認知症グループホームにおいては、現状に応じた事業変更も視野に入れ検討委員会を立ち上げていきたいと考える。特に認知症グループホームのスペースの有効活用をテーマに、ニーズに対応し且つ事業安定が見込める活用を考えていきたい。

5)まとめ〜声を力に

 地域活動支援センターから就労継続支援B型への移行やふうが利用者発の事業展開を今年度も考えていきたい。利用者が安心できる場所、興味を持てるプログラムの構築が、利用者の安定利用に繋がる。引き続き丁寧な支援を心がけ、活動の充実を図っていきたい。

 最後に、包括支援センターやふうがなど法人の相談機関が中心となって作って来たネットワークによる専門職の連携、また、継続的な交流の場の運営による住民支援にも引き続き力を入れていく。これらの活動に法人全体で関われるようスタッフにも周知すると共に、ニーズをくみ上げ、誰もが住みやすい街づくりを意識できる1年としたい。

3. 法人運営と総務の課題

1)新・人事システムの実施

 いわゆる「働き方改革」に関連して、2020年度からは「同一労働同一賃金」の施行も適用になり、法人の人事システムもそれに伴って見直すことになる。同一職種における雇用形態の差(正職員・非常勤職員)における給与格差のうち、職責などと連動しない福利厚生的な手当(通勤・扶養・住宅手当)については、同一条件に改善する。その他は業務内容や責任性などを鑑み、「業務責任制」「変動制への対応(職務内容・時間における変更の可能性)」「育成や質の向上への貢献」「業績への責任」の4点を賞与支給・退職金制度加入の条件として整理した。

 他方で、正職員の手当関係は上限額を減額としたり、給与表の昇給ピッチを鈍化させるなどで今後の抑制を図ることになった。2020年度についてはこのことによる職員雇用調査や人件費の変化について注視をし、必要な対応があれば速やかにおこなうことが求められる。

2)次世代育成支援対策推進法・女性活躍推進法に基づく行動計画

 採用に関する事項として、正職員に対する基準を見直し、一定の限定的な就労を可能(部門や事業部や勤務時間の限定)にすることで、性別や家庭状況にかかわらず登用が可能にする。

 また、2019年度(4〜1月の平均値)の有休休暇取得と時間外業務の状況、および2020年度の数値目標については下表の通りである。

有休休暇取得と時間外業務の状況、および数値目標
  2019年度
有給取得実績
(年間週5日勤務換算)
2020年度
有給取得目標
(年間週5日勤務換算)
2019年度
時間外業務時数実績(1か月平均)
2020年度
時間外業務時数目標 (1か月平均)
職員全体 10.37 12.0 6.57 5.0
正職員 12.27 14.0 12.42 10.0
非常勤職員 8.54 10.0 0.97 0.9

 なお、特に時間外業務については部門間の状況の違いが大きいため、時間外業務の多くなっている高齢系居住系(地域密着型)への対応が大きな課題になる。他部門職員の応援や夜勤専任に近い雇用形態の採用(週休3日制)も行いながら時間外業務の抑制につとめたい。(高齢系が赤系統・障がい系が青系統で塗りつぶしが平均以上)

平均時間外業務時数(1か月平均値・非常勤も含む)

 また、女性管理職育成(現在6名中1名)に向けた計画も推進していく。現実には年
齢構成や経験年数として不均衡もあるため、すぐの登用は難しいが、指導職研修を通じて法人第7期(2021〜23年度)もしくは第8期(2024〜26年度)には1名の登用をめざして、現在指導職24名(係長7名・主任17名)のうち9名いる女性職員の育成にもつとめたい。

  総数
総職員数 155 67 88 43% 57%
職員 117 45 72 38% 62%
副主任 11 5 6 45% 55%
主任 17 10 7 59% 41%
係長 7 5 2 71% 29%
課長 2 2 0 100% 0%
部長 1 0 1 0% 100%

 

3)採用選考・広報

 採用選考のあり方については、見直しを検討する。具体的には面接の複数回実施(採用担当者・現場)や採用後面接の実施をおこなう。高齢介護職員の慢性的不足には外国人人材の導入もされているが、法人では正職員1名・非常勤(専門学校学生で2021年の卒業後は正職員登用予定)1名にとどまっている。専門学校や短大、紹介会社などのルートはあるものの、入国ルートや費用なども複雑なため、見極めをおこなったうえで、2020〜21年度には3名程度の採用につながるように対応する。

 広報については2019年度は各部門でのSNS活用の広がりや法人ブログの設置などをおこなってきた。2020年度は求人用のページを充実させ、多様な働き方を保証し、家庭などの条件を有する職員でも働きやすい職場であることや、法人実践の内容も含めて多面的に伝えることに注力したい。「ライフサポートだより」といった広報誌についても行事紹介以外に利用者や職員をピックアップした記事(永年勤続者や永年利用者などのエピソード)やデータの公開(アンケートや就労支援事業売り上げや工賃など)なども加えて、事業の質を広く広報したい。

4)研修

 従来からの基本研修・専門研修・必須研修は従来通りに加えて、2020年度は職掌別の研修(副主任研修・係長研修)をおこなう。副主任については「勤怠ルールや会計の仕組み」といった業務管理に類する科目や、人権や福祉の歴史といった日常支援の根底にあたる「福祉観」を問うような科目を検討している。係長研修はハラスメントに類する科目と、業務改善や第7期中期計画作成もからめて、事業の大局的な課題について討論・文章での表現を学ぶ科目を予定している。これとは別に「経営者育成」を兼ねたワークショップや講座を主任・係長対象に検討している。

5)防災

 2019年度はマニュアルの整備や各施設での防災訓練を計画的に実施してきたが、2020年度は地域活動協議会との訓練の実施を計画している。

2020年度防災関係における取り組み予定表(2020年1月31日)

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 さらに災害対策以外にも、指定感染症の流行や事故発生時について一定の指針を策定に向けて議論をすすめていく。

6)法人本部体制

 法人本部総務職員は2019年度に大幅に変わった。経験値が低く、勤務時間に制約のある職員が大半を占めたため、後半期はシニアエイドイノベーション社からの派遣対応(週1回)の応援を得ている。2020年度は習熟とともに、自律的業務遂行を進め、さらには一定のデータをすぐに閲覧できるような記録の整理をおこなっていく。また中心となる指導職も不在で進めてきたが、課題となる事務局次長の育成についてはすぐにはならないが、養成及び異動による登用も含めて検討していく年になる。

7)設備・備品関係の管理

 施設の補修関係ではなごみ・総センで年間150万円ずつは設定をして、随時の故障に対応していくが、資金不足もあって大規模改修などは第7期などの中期計画で再検討をおこなうこととする。

 また、Windows10移行にともなうパソコンの置き換えが遅れていたが、年度内に法人の半数以上になる80台の買い換えを実施する。残りはソフトが入っていない・ネットに接続しないなどの端末は当面Windows7などで存置し、既存の端末の再整理をおこなう。

 その他、業務効率化や情報共有のためのスカイプ(泉北⇔住吉、大領⇔住吉など)での会議や面談の実施、在宅ワークの可能性の研究(個人情報流出対策や不可能な場合の業務切り出し=その場合は広報や行政提出データ整理などに絞る)も検討していきたい。