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住民自治を忘れた市政改革

2016年7月15日

ライフサポート協会 常務理事 村田 進

 2016〜2018年度の「市政改革プラン2.0素案」(以下「プラン2.0」)のパブリックコメントが大阪市のホームページで募集されています。橋下市長の時に発表された前回の「市政改革プラン」(2012〜2014年度)については、以前のコラムで地域組織を上からの改革で短期間に進めようとする大阪市側の問題点を指摘しましたが、今回は「プラン2.0」について考えてみました。

(2012年8月「本当の自律的な地域運営のために」参照)

  この2つのプランはいずれも3点の「改革の柱」を掲げています。

改革の柱

改革の柱が一面的

 それぞれの改革の柱を比べてみると、プラン2.0の柱から住民自治に関わる内容が無くなっており、明らかにお金と組織についてだけの改革のように思えます。大阪市の中では、全体の市政改革は市政改革室が、市民活動や区政運営に関わる改革は市民局の区政支援室が担うという分担がされているようです。しかし、住民自治という自治体の魂を除いた市政改革プランは、行政内部の効率化に焦点が当てられ、自治体本来のダイナミックな改革の視点が欠けています。

市民はお客さま?公共施設は誰のもの?

 そのことはプラン2.0の内容にも明らかです。改革の柱1「質の高い行財政運営の推進」の中で出てくるのは「市民サービス向上」で、市民はあくまでのサービスを受けるお客様にとどまっています。また、「公共施設等の見直し」の項でも、そこで示されているのは(1)施設総量の抑制、(2)予防保全による長寿命化、(3)多様な手法によるコスト削減(民間活力の導入等)、(4)利用者負担の適正化という課題で、これらの公共施設の真の所有者である市民の声を聞く姿勢は全く感じられません。前回の市政改革プランに基づく市民交流センターや障害者会館、市立幼稚園等の廃止、民営化等においても、それを利用していた市民の声を聞くことなく、利用効率性や採算性のみで決定を下してきました。地域にある公共施設を有効に活用するためには、区の段階で利用者と住民が参加した中で、施設の今後のあり方について公私協働の多様な手法の検討が必要だと思います。

 自治体の効率化は住民自治があって初めて可能

 全国の自治体は財政難の中で地域の活性化問題などに必死に取り組んでいます。成功しつつある事例の多くは、行政が地域住民と一緒にまちづくりや地域福祉に取り組んだところです。埼玉県和光市のように、住民と一緒に地域のニーズを的確に把握し、住民参加で多様な予防的地域支援活動を展開する中で介護保険経費を劇的に抑制した例など、市民のニーズ把握と協働こそが自治体経費効率化のカギです。

 行政が全て抱えて、市民をお客様にしているかぎり、行政が全ての責任を抱え込まざるを得ず、経費は増えるばかりです。国も含めて財政だけで社会保障を担える時代は終わっています。市民が自らの人生を地域でどのように送りたいのかを自覚し、それを行政と市民が一緒に支え合う住民自治に基づく市政改革こそが求められていると思います。

お互いさまの地域づくり〜参加と協働の場づくり

 今日の自治体行政のあり方を考えた時、まず第一に、住民当事者の声を基本にした運営が求められます。住民が何をどのように必要としているかを踏まえてこそ、適切な事業課題が明らかになり、効率性も上がります。第二に、住民が主体的に参画する事業の推進が必要です。日常的に地域の課題を知る住民自身が支え合う事業を進めることが効果的です。行政の仕事をコストカットの視点で外部化するのではなく、住民活動を活性化させるために地域に事業委託する等、地域に働く場を作り、支え合いの芽を育む政策が重要です。また、地域住民が活動する拠点を確保できるように、既存の施設や資源を有効活用することも大切です。

 最後に、戦略目標として「支え合う地域社会づくり」を位置づけることです。お互いさまの地域づくりは、様々な福祉課題にとって早期発見・早期対応による予防的効果を生みます。そのことが、住民にとっては、どんな人でも一人ぼっちになることなく暮らし続けることができる安心感を共有することにつながり、自分たちの地域を誇れる住民自治を育むことにつながります。

 自治体改革の原点は、この住民の自治をどう発展させるかにあることを改めて確認しなければなりません。