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あたり前とは何かを問い直して…

2015年9月

悲しい事件から

 住吉区の特別養護老人ホームから、「入所者の女性の顔色が悪く、意識がもうろうとしている」と119番があった。女性は97歳。入院したが、命に別条はないという。大阪府警住吉署は同日、職員のK容疑者(23)が首を絞めた疑いが強まったとして、殺人未遂容疑で逮捕した。
 K容疑者は「日々の介護に疲れていた。高齢者を介護する苦しみを誰かに気づいてほしかった。殺意があったかは分からない」と供述している。というニュースが報じられました。

 えっ??何が??と驚きと動揺が走った瞬間でした。

 高齢者を介護する苦しみを誰かに気づいてほしかった。何が彼をそこまで追いやったのかを。かといって、そのような心境に追いやられたから、その様な行動をしていいということには決してならない。

 むしろ日ごろからの思考が、そうさせているのではないか。「自分の人生を自分の意思で動いていない」がゆえに、他人に責任転嫁しているだけではないのか。生命そのものの尊さを感じることができていなかったのか。

 当該施設の職員さんがみんな、そうであるということでは決してありません。今もこの瞬間を、目の前の方へ、すこしでも安心して暮らしていけるよう、様々な対応におわれながらも支えておられる職員さんがおられるのですから。

 さまざまな感情とともに、同じ住吉区の施設として、今後どうしていくのか、自法人だけではなく、他の法人と連携して人材育成に取り組む、住吉区の施設のあり方を問うていく必要性を感じました。この思いを行動に移していこうと、早速、区内のN施設長と話し合いをはじめました。

 ライフサポート協会 ホームページ内には記されています。

私たちの主張

ライフサポート協会は、地域福祉を担うオピニオンリーダとして、福祉をめぐる環境が刻々と変わる中で、よりよい福祉のあり方について提案し実行していきます。生涯にわたって安心して住める地域をめざして、私たちは日々努力を続けています。

Tさんご夫妻のこと

 Tさんご夫婦とのであいは、法人が誕生して間もない頃ですので、15年以上前になるでしょうか。

 パーキンソン病を患っておられ、会話もままならないご主人と、重度の認知症を患っておられる奥様。お子様はいらっしゃらなく、ご兄弟といっても皆さんご高齢で、かかわってくださっている方は、姪御さんおひとりでした。

 在宅介護支援センターから、デイサービスや、ヘルパー事業をつかいながら、ご夫婦での在宅生活を支えてはいましたが、次第に在宅サービスの限界が見えてきました。

 どうしても在宅が難しくなった時の受け皿が必要ということで「特養なごみ」をつくろうという事のきっかけにもなりました。(そのようなご夫婦が一緒に特養に入居できるようにと、なごみの特養は、壁を外すと、二部屋が一部屋になるように設計されています。)

 しかしながらご主人は、特養の完成を待たずして、看取り段階にはいられました。いつも、ひとつのベットでやすまれている仲良しご夫妻でした。だからといっても、奥様ご自身が、自分自身のこともままならない状況下、看取りをおひとりでは困難。しかし、ご主人がいい状況でないということはわかっておられます。会話されることはできなくても、そばから離れることはされません。

 入院といっても、入院してもよくなる状況でもなく、治療方法がほかにない状況でもあり、ましてや、お1人が終末期、そんなTご夫妻の受け入れができる特養はありませんでした。

 お二人のお気持ちを汲み取ると、お二人でこのままということも選択肢のひとつでもありましたが、結局、今のように、在宅生活を長く続けられる為の小規模多機能のような事業もない時代ですから、法人の常勤職員が順番をくみ、ヘルパー事業部から1人、他事業部から1人の計2人体制で、泊まりこんで看取ろうということとなりました。当時は私もデイサービスの管理者しながら夜勤をしました。

 特養の開設とともに、おひとりになられた、奥様がご入居されました。

 以来11年。奥様もこの9月18日にご逝去されました。(冒頭の事件の一日前です。)

 お別れ会は特養で執り行われました。最期までかかわってくださった姪御さんと、御主人のこととなども話しながら、お見送りいたしました。

無意識の意識化

 施設では24時間365日盆も正月も、シルバーウィークも関係なく、暮らしを支えています。ご自身1人では暮らしの継続ができなくなり、入居された方に、最期のそのときまで、あたり前の生活をあたり前にしていただこうと、心と身体で支えている職員がいます。

 職員間もお互いに支えあっています。さらに職員だけではありません。ご本人・ご家族とも共有しながら支えあっています。

 特養でも、小規模多機能でも、ご本人が亡くなられた後でも、ご家族はお顔を見せていただけています。ご家族は亡くなってからも一緒に歩んでいるのです。福祉職はおひとりお一人のかけがえのない人生の最終章に携わらせていただく尊い職業です。ひとりの人として最期の時まで、うけいれられ、社会との関わりをもって生ききる。逝ききる。往ききる(目的地に向うといういみ)ことを共に歩んでいるのです。

 特養なごみでは、以前は、あたり前のように行っていた、集団サービスはやめようということで、流れ作業となっていた、定時の巡回型おむつ交換はやめました。

 今となっては、そうすることが、当たり前のことなのです。

 おひとりおひとりにあった排泄時間を知り、その方にとってどうなのかを常に考えています。何を「あたり前とする」のかが重要なのです。

 アメリカを代表する哲学者・心理学者であるウィリアム・ジェームズは、

考えが変われば、意識が変わる
意識が変われば、行動が変わる
行動が変われば、習慣が変わる
習慣が変われば、人生が変わる
人生が変われば、運命も変わる

と。

マザー・テレサの言葉にも、

思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。

 すべては、思考からスタートしているのです。

 あたり前の思考の転換が必要なのです。

 親交いただいているNPO法人「樹」代表の瀬川さんがいつもお話くださる「無意識の意識化」も同じです。瀬川さんの言葉をお借りすると

「無意識にしていることの根源は、思考によるもの。人間の脳の98%は無意識で動いているのだから、普段から無意識を意識化することが大切。意識化することで、3つの視点を同時に思考できる人になれる。

  • ミクロレベル:目の前の人の支援を巧みに発想できる。
  • マクロレベル:組織・地域がどうあるべきか発想できる。
  • メタレベル :社会が、日本がどうなっていったらよいか、発想できる。ようになる。」

 日本の運命がかわることにつながるともいえます。

 ウィリアム・ジェームズは、このような言葉も残しておられます。

この人生は生きる価値があると言えるだろう。
なぜなら、人生は自分で作るものであるからだ。

This life is worth living, we can say, since it is what we make it.

 自分たちで切り開いていきたいと思ってやみません。

(総合施設長 福留千佳)

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